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第12回 厩舎解散の舞台裏で...

2011.03.17
 2月,それは競馬の世界にとって区切りの月。今年も7名の調教師の方々が引退され,3月には,新たな名前の厩舎が開業し,スタートします。
 寂しさや切なさと同時に,新しい風を感じるこの季節というのは,何ともいえない空気を感じるものです。取材をしていても,「先生のために,何とか勝利の数を増やしたい」「重賞を勝ちたい」と,厩舎一丸となる一方で,3月からは離れ離れとなってしまう仲間たち...。

 やはり長年の月日によって培われた人の輪は,厩舎のカラーを作り上げるもの。いつ行っても,変わらない厩舎の雰囲気。洗い場で聞こえる楽しげなスタッフの方々の笑い声。この景色がなくなってしまうのかと思うと,取材をする私も,寂しくなります。

 そして何よりも切ないのが,愛馬と別れなければならない担当者の方々の寂しげな表情。池江厩舎・ディープインパクトでお馴染み,市川厩務員さんもその一人。最後の担当馬となったトゥザグローリーは,見事にラストレースを重賞勝利で飾り,レース後の市川厩務員さんの目には,光るものがありました...。
 後日,市川さんは精一杯の笑顔で,「僕は,こういった形で池江厩舎を終えられるのだから,本当に幸せです。ただ一つ,心残りといえば,この仔(トゥザグローリー)との別れです...。だって僕にとっては,我が子同然ですから...」と話されるその言葉一つ一つが,胸にズシンと突き刺さるものでした。

 また同じ厩舎で,リルダヴァルを担当する片山助手も,「何度も格闘してきたコイツ(リルダヴァル)を,やっと可愛く思えてきたのに...」と,これまで作り上げてきた愛馬との絆の深さを,しみじみと感じていました。というのもこのリルダヴァルは,厩舎で「破壊王」と呼ばれ,これまで何度も,カイバ桶や馬房の扉を破壊。そしてそれは物だけにとどまらず,片山助手のアゴも...。
 「最初は,立ち上がるし,向かってくるし,毎日がコイツとのバトルで必死だった。頭突きをくらった時はアゴの骨にヒビが入って,1週間,ほとんどご飯を食べることができなかったし...。それがいつからか,何で,いつもこんなに元気なん?と面白く見えてきて。今ではその元気さが,コイツらしくて,かわいい」と。

 馬は産まれた時から競走馬ではなく,こうした人との対話の中で,馬から競走馬へと育ち,レースへと向かうのです。その作り上げる過程の中で,1番多くの時間を共有するのが,担当者の方々。時には母のように,そして時には父のように。右も左も分からない,そんな成長過程を共に過ごした,人と馬との関係の深さを感じました。もちろんその一方で,これからその育てあげた馬を担当される方々も,大きなプレッシャーはもちろんのこと,手探りな状況下ゆえに新たな課題も出てくることでしょう。

 一つの厩舎の解散の裏には,言葉では言い表せないほどの思いが隠され,だからこそ,この2月というのは,独特な空気に包まれるのかもしれませんね。しかしながら,別れがあるからこそ,また新たな出会いがあり,新しい道が生まれる。

 3月,これから始まる競馬には,どんなストーリーが待っているのでしょうか?
 それでは皆さん,また来月号でお会いしましょう。ホソジュンでした。
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