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第27回 寡黙だからこそ、強い意志があるのかも...

2012.06.15
 先月号を書き終えたのが、ちょうど春の天皇賞前。あれから約1ヵ月の間に行われた数々のG1レースでは、様々なことがありましたね。
 まずはなんと言っても、春の天皇賞でのオルフェーヴルの大敗。やはりこれまでとは違い、調教再審査を行わなければならない中での調整過程は、人間が感じている以上に、馬にとっては過酷なものだったのかも...。

 師もそのあたりを心配し、胃薬を与えながらの調整をしてきたものの、お腹をこわすこともあった様子。と同時にもう一つ師が懸念されていたのが、試験の練習を強いることによって、競走馬としての大切な本能的な部分がそがれてしまわなければいいが...と。

 そしてこの見解に関しては、過去に調教再審査を実際に行ったことのある騎手や、これまで名馬を手掛けてきた厩務員さんからも、同じ声が聞かれ、受かる、受からないといったこと以上に、難しい問題があるように私自身も感じていました。ただ現時点においては、あの大敗の要因が、体の負担あってのものだったのか?それとも心の面だったのか?それともその両方なのか?は謎。

 きっとその答えはオルフェーヴルのみが知り、次走の宝塚記念で明らかになることのようにも感じますが、とにかく今後の競走馬生命を考えても、体と心の両方におけるダメージが少ないことを願うばかりです。

 しかしながら今回のオルフェーヴルもそうですが、5冠牝馬のアパパネちゃんの走りに関しても、改めて馬はメンタル的な部分が、レースにおいて非常に大きなウエートを占めているように感じたのは私だけではないように思えます。

 ブエナビスタとの壮絶な戦いで5つ目のG1を手にしてからの1年。アパパネらしさを取り戻したいと、陣営も必死で取り組むものの、今年のヴィクトリアマイルで見せた姿は、どことなく以前よりも優しい雰囲気に...。担当する福田助手も「体は良いと思うのですが、レース発走前の気迫というか闘争心が感じられなくて...」と。体をいくら鍛え脂肪をそいでも、気持ちが戦闘モードに入っていなければ馬は走ることをしないのかも...?

 ひょっとしたら馬たちは、馬自身が走りたいか否か、意思を持って決めているということなのかもしれません。

 そういった意味で言えば、ブエナビスタの引退となった有馬記念で、ラストランの手綱をとった岩田騎手は、あの中山の最後の直線、自分を抜き去っていく馬たちにむかって、「あとは頼んだよ」というブエナビスタの心の声が聞こえたと話されていました。考えてみればあの日、スタート前のポケット地点で見せた彼女の姿は、スタンドをジッと見つめ、まるで競馬場の光景をしっかりと目にやきつけているかのようでした。

 ひょっとすると頭の賢いブエナビスタは、今日という日が自分にとって最後のレースになることを理解していたのかもしれません。そして引退を花道で飾るのではなく、これからの競馬界を担っていく同僚たちに華を持たせたのかも...。

 物言わず寡黙に走り続ける競走馬たち、だからこそ馬たちには、人間の想像をはるかに超える強い意志があるのかもしれない...。今月は、そんなことを強く感じる月でしたぁ。

 それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
 ホソジュンでしたぁ。
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