JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

第31回 「愛」あってこその人と馬

2012.10.16
 今年の秋競馬、前哨戦を振り返ると、春の実績馬たちが順当な勝ち上がりを見せているレースも多く見受けられ、G1戦線が非常に楽しみとなってきました。中でも史上4頭目の牝馬3冠達成がかかるジェンティルドンナが、本番に向けて、不安材料を取り除く形でのレース内容を見せての圧勝振り。偉業に向け、さらに視界良好といった感じとなりました。
 3冠牝馬と言えば、つい先日アパパネの引退が発表されました。やはり寂しい気もする一方で、数々の名勝負を見せてくれた彼女だけに、ここ数戦の敗戦する姿を見ることも、また切ないものがあり、心のどこかでホッとした感情も...。

 このアパパネと言えば、現役時代に栗東に滞在することが多く、周囲から半分関西馬扱いをされ、栗東の人々にも、とても愛されていた馬。そして愛されていると言えば、担当する福田さんとは恋人同士のような関係で、人と馬を超えた何かがそこに存在していたように感じます。中でも1番印象に残っているのが、アパパネの馬房の前で、福田さんと話をしていた時、(何よ、この女!)といった感じで私を威嚇し、福田さんと私の間に顔を入れてきたこと。そして右の私を見ては怖い顔をし、左の福田さんを見てはトロンとした優しい瞳で、女のフェロモンムンムン状態に。晩年は、そのラブラブ度も家族のような雰囲気に落ち着いて見えましたが、アパパネが競馬場で強い走りを披露することができたその背景には、レース後、自分を待っていてくれる優しい福田さんの存在があったからこそなのではないかなぁ~と感じます。

 それは競馬だけに限ったことではなく、今年行われたオリンピックでも同じ。メダルを獲得できた方々の試合前の想いの多くは、自分の為というよりは、誰かの為にメダルをとりたいと願った人が圧倒的に多かったとか。

 人の心や、馬の心を動かすその源は、愛なのかもしれない、そんなことを思います。

 そして今、騎手デビュー6年目にして、リーディング首位を走る浜中騎手にも同じことを感じます。浜中騎手と言えば、競馬好きな両親の間に生まれた九州男児。デビュー当時の小倉開催時には、両親や親戚も観戦し、身内で応援。重賞騎乗の際には、「今日はジイジイとバアバアも来るんで、頑張りたいです」と、あどけない笑顔で話していた浜中騎手ですが、そのあどけなさは今でも健在。

 昨年、師匠である坂口調教師が引退をする際には、周囲の目を気にすることなく、泣きじゃくる姿が印象的でしたし、現在においては、毎週水曜日のスタンドで、師と談笑をする姿が見受けられ、実に温かな雰囲気。またその横には、兄貴分のような存在の岩田騎手。

 そんな姿を見ていると、浜中騎手の強さの秘密は、自分を育て、引退後もなお自分を大切に思ってくれる師匠の大きな愛に見守られているからこそ、逆に師匠を安心させてあげたいと願う師弟愛から生まれる力と、騎乗技術を惜しみなく伝授し、弟のように可愛がる岩田騎手の愛、これが非常に大きいように感じます。

 デビューから、あっという間に頂点へと足を踏み入れた浜中騎手。23歳という年齢を考えても、重圧や不安など、様々なことがのしかかることでしょう。しかし浜中騎手を見ていると、勝負師としてのイカツサや孤独感を微塵も感じさせないどころか、逆にホンワカとした温かい風を放ち、デビュー当時と変わらないアドケナサも。

 やはりそれは彼自身の中に、人の愛で蓄積された太い幹が存在し、それが大きな軸となり、パワーとなっているからなのかもしれません。

 さぁ年末まで続くリーディング争い、その結果はどのような形となるのかは分かりませんが、浜中俊という騎手は、長く&太く競馬界にその大輪を根付かせ、温かみある花を咲かせていく、そんな気がします。

 それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
 ホソジュンでしたぁ。
トップへ