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第45回 菊花賞勝利の舞台裏~何も言われないからこそ感じる強い想い~

2013.12.18
 続々と秋のGⅠ戦線が行われ、このコラムが掲載される頃には、1年を締めくくる有馬記念となっているのでしょう。
 競馬に携わっていると1年が本当にあっという間に過ぎ去っていきますが、秋競馬のトライアルが始まる夏の終盤あたりから一気にスピードが加速していく感じ。

 特に私自身にとって今年は、夏競馬以降、妊娠による産休をとりマレーシアへの短期留学、そして出産・育児と、これまでに経験することのなかった出来事のオンパレードで、例年以上にあっという間でした。また子を授かった喜びを感じる反面、戸惑いや不安、心配事も多く発生し、2013年は私にとって変化と学びの年となった気がします。

 皆さんにとっては、どのような1年だったのでしょうか?

 さて学びという言葉を述べましたが、秋のGⅠ戦線の中でそのフレーズがピンとくる勝利と言えば、春の課題を見事にクリアしてのラスト1冠・菊花賞を手にしたエピファネイア&福永騎手&角居厩舎陣営だったのではないでしょうか。

 春の2冠は共に折り合いを欠いたことによる2着。決して力負けによるものではないと感じる2戦だっただけに、陣営にとってはありあまるエピファネイアの力を道中いかに温存できる馬へと導くかが課題となりました。

 陣営は、放牧先で騎乗する方との連携を密にとり、一環した馬作りに取り組み、また調教においても春とは違うメニューを消化。馬ばかりか、エピファネイアを取り巻く全ての人が繋がる形で調整。

 一方の福永騎手にとっては、エピファネイアをコントロールできるだけの技量・体力を身につけることが騎手としての最大の任務に。

 そこで今までのトレーニングを見直し、新たなメニューを取り入れることに。
 陣営は陣営として、騎手は騎手として、互いに互いの立場でそれぞれの最善を尽くした結果が神戸新聞杯・菊花賞での走りに繋がり、勝利となったわけですが、この過程において何が驚かされたことか?というと、日本ダービー後にとった角居師の行動。

 振り返ってみれば、躓く場面もあった日本ダービー。レース後、騎手は自分のミスを重々承知し、陣営に対して申し訳なさそうな表情で検量室前へと引きあげてきたわけですが、そんな福永騎手に対し、角居師は何も言わなかったのだそう。

 また乗り替わりも覚悟した秋競馬でしたが、そのままコンビ続行となった際においても角居師が福永騎手に対して、指示や要求を言葉にして伝えることはなかったのです。
 その姿に、「何も言われないからこそ、逆に自分自身がすべきことを痛感させられ、何としてでも応えられるようにしなければという思いだった」と、福永騎手。

 調教師の立場として騎手に対し、文句や叱責、要求を口にすることは安易なことですが、裏を返せばその思いを堪えることが、感情を持った人間にとっては非常に難しいこと。

 今回、角居師がグッと言葉を飲み込こんだ背景には、騎手自身が敗因の理由を自覚している点を理解した上で、今後に対する福永騎手への期待と信頼があったからこそなのでしょう。
 そしてその愛に触れたからこそ、福永騎手も心の支えを得、切磋琢磨することができたのだと感じます。

 今回の菊花賞勝利の舞台裏には、エピファネイアのみならず、福永騎手をも育てた角居師が存在していたと言っても過言ではないのではないでしょうか?

 昔から「馬作りは人作り」と言われますが、改めて角居師の偉大さを感じるものでした。
 それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
 ホソジュンでしたぁ。
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