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第61回 美しきホースマンたち~岩永千明騎手の聡明さに感動~

2015.04.17
 騎手を引退して数年たった頃に携わった仕事の1つに、「細江純子の美しきホースマンたち」という番組があります。男性社会と言われる競馬の世界で奮闘する女性にスポットをあて、馬との最初の出会いから今の仕事に至るまでを振り返り、今後の目指す道、夢を伺うという内容。
 当初、このナビゲーターの話を頂いた際、私を起用した理由に、「競馬の世界で挫折を味わった細江さんだからこそ聞ける話があると思うので」というものでした。真っ先に頭に浮かんだことは、(挫折...?!私が挫折を味わった人...?)と。

 しかしよくよく考えて見ると、確かに騎手を目指しデビューはできたものの、自分の思うようには物事が進まず、にっちもさっちもいかない状況にもがき苦しむ日々の連続...。先が全く見えない状況に、このまま騎手を続けていてもいいのかと悩み続け、6年という短い期間で引退をした私。

 辞めた直後は競馬が嫌いになり、競馬中継を目にすることすら拒否反応を起こしていました。しかしその後、取材をする立場となり、1頭の馬に携わる方々の日々の時間の費やし方や、一流騎手といわれる方々の奥深い考えに、自分の甘さを反省すると同時に、もっと競馬のことを知りたいと思うようになりました。しかしその時点では、ここに至るまでの状況や思いというのが、イコール挫折という言葉と結びついておらず、他者に指摘をされたことによって、「あ、これを挫折というのだぁ」と、妙に納得させられ、それを機に騎手へのわだかまりや、なんとなくモヤモヤとして消化しきれない気持ちがスッとラクになったのです。

 正しい表現かどうか分かりませんが、数々の病院に行ってもなかなか分からなかった体の不調に、しっかりとした病名を告げられた時のような感覚とでもいいましょうか...。また病名が分かったところで病が治るわけではないのですが、心の面での受け止め方に大きな違いができることで覚悟も決まり、自分自身と向き合えるような。そういった意味でも、言葉の意味をきちんと理解し、決定付けることの重要さに気づかされた瞬間でもありました。

 そしてその「美しきホースマンたち」が、6年振りに復活することとなり、この1月~3月までの3ヵ月間で新たな6人の女性を紹介し放送したのですが、その最後に登場して頂いた最年長女性騎手の岩永千明さんの発する言葉に、当時が思い起こされたのです。

 岩永騎手は荒尾競馬の廃止で一度は引退を考えたものの、師匠の後押しもあり佐賀競馬に移籍。
 その際の心境を、「『挑戦』の気持ちで、この佐賀にやってきました」と、話されていたのです。数々の地方競馬が廃止となる中、移籍先となる現場も危機感を持ちながら、なおかつ新たな人々が入ってくる状況というのは、決して穏やかな風とは言えないでしょう。

 彼女は、そういった状況も全て把握しながら、自分自身を『挑戦』と置き換えていたように感じました。そして今では佐賀のリーディングジョッキー鮫島騎手も成長振りを認めるほどの成績を上げ、昨年は、NAR女性騎手リーディングを獲得。逆境の中でも自分自身を見失うことなく功績をあげられる要因は、客観的に物事を捉えることができ、自分の置かれた状況を理解しながらきちんと言葉としても表現できる頭の良さなのだなぁと感じました。

 だからこそ、どのような風が吹こうとも軸がぶれず、突き進むことができたのでしょう。年齢は8つも私よりも下ですが、とても聡明な女性だなぁと感心してしまい、岩永騎手のファンになりました。

 また佐賀競馬に行きたいと思っています。
 それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
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