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第71回 新人女性騎手誕生に思う~男勝りの強さよりも柔軟な心を~

2016.02.19
 2月は競馬界にとって区切りの月。定年を迎えて厩舎を閉じる調教師の方々に、鞭を置きターフを去る騎手も。そして月が替われば新たな名前の厩舎に騎手が誕生します。なんだか切なくもあり、期待もあり、複雑な心境になります。
 そしてなんと言っても今年は、現在・梅田智之厩舎で調教助手として働く元騎手の西原玲奈ちゃん以来となる女性騎手の誕生もあり、競馬界内外から注目を集めています。

 この数ヵ月の間にも、某雑誌社から、「女性騎手が誕生しますが、どう思いますか?」「成功するには、何が必要ですか?」などの問い合わせも。

 お恥ずかしい話、何の活躍もできず6年弱で早々と辞めてしまい、結果、女性騎手の門戸を狭めてしまった私が助言などできるわけもなく、ただただ順調にいってほしいと願うだけ。よって答えにならないような返答をしていると、「僕達も分かっているンですよ。女性騎手が厳しいことは。だからこそ、デビュー前に取り上げるンです」と。

 だからデビュー前に取り上げる?その意味がよく分からず、説明を求めると、「デビュー後は成績次第。となると必然的に男性騎手は取り上げる機会も増えるし、話も聞き易いでしょ。だから女性は先になるの」と。

 20年前のデビュー時、いや、今に至るまで、そんな風に見られ、そのように扱われていたことに気付かなかった...。

 何だか切なくなるとともに、これが大人の世界であり、その仕組みを理解した上で対応していくことが自分自身の心を守る術だったのかもしれないと、今にして思いました。

 しかしながら話題として取り上げられることによって、より注目を集めてのスタートとなるのですから、重圧は男性以上。

 それでいて騎手は乗り馬がいて始めて騎手となれるわけで、どれだけ周りからの騎乗機会が得られるかが大きな要因となるわけですが、それだけは自分の力だけではどうしようもないところも...。よって、周囲の注目と現状、その差が大きくなければいいなぁと願うばかりです。

 また今にして思うことの1つに、ジェンダー的に物事を捉えることに過敏になるのではなく、素直に受け入れてもいいのかなと思えます。

 今、放送中の「あさが来た」の主人公である女性の実業家・広岡浅子さんの物語でも問いてることなのですが、男社会の中で女性が歩む上で重要なのは、男勝りの強さ以上に柔らかさがより大事になる気がします。

 今以上に男社会だった馬の世界に飛び込んだ20年前、周囲の「男に負けるな」「男以上に鍛えるべきだ」などの声もあり、常に男に負けてはいけないと無意識のうちに意固地になり、孤立の道を辿ってしまった気がします。

 しかし結局1人では何もできずに終わってしまい、気付かされるのは、周囲の人々の力。

 心底、人に対しても馬においても、もっと柔軟に対応し、分かち合い、懐に入り、過ごしていきたかったなと後悔します。

 しかしその点で言えば先日、競馬学校の模擬レースにお邪魔した際、教官には菜々子ちゃん・菜々子ちゃんとチャン付けで呼ばれ、先輩騎手からは、食事に誘っても菜々子は人気者で俺はふられてしまったとの話が出るほど周囲の人々に愛されていた彼女。

 菜々子ちゃんの笑顔と周囲の声に安心するとともに、この状況をデビュー後も大事にしていってほしいなぁと感じました。

 それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
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