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第3回 セイウンワンダーの活躍で注目の集まるJRA育成牧場管理指針

2009.03.01
 JRAが制作した「JRA育成牧場管理指針」をご存じだろうか?自分自身,JRA育成馬であるセイウンワンダーの取材で日高育成牧場を訪れた際に初めて目にすることができたのだが,僅かながらも育成牧場に勤務した人間として,目から鱗が落ちるような内容だった。
 全36ページにわたって明記されているのは,競走馬の日常管理や馴致について。JRAの各育成牧場(日高育成牧場,宮崎育成牧場)のスタッフが海外へと出向く一方,30年以上にわたって現場で培われてきた育成馬に対する日常の躾や管理,また騎乗馴致,騎乗調教といった育成調教の根幹が事細かにまとめられている。

 実はこの管理指針は第2版である。巻頭の「印刷に寄せて」に書かれていたが,初版を発行したところ,関係者からの反応が大きく,たちまち残部が無くなったとのことで,加筆や訂正,また写真やイラストの追加や差し替えをして発行し直したのが,この第2版ということになるのだという。

 馬産地を渡り歩くライターとして10年以上の月日が経ったが,改めて知る様々な知識に驚かされると共に,育成牧場に勤務していた頃の自分を思い出す。全く知識がないまま競走馬育成という世界に飛び込んでみたものの,新しいことを学んでいくという期待感より,訳の分からないことをやらされていくという徒労感に支配される毎日だった。

 こんな人間に接していた馬たちはなおさら気の毒だった。見よう見まねで覚えた手入れをされてはみたものの,体の汚れは落としてもらえず,それどころかくすぐったい場所には何度もブラシが行き来していたのだろうから。また,指示を出すタイミングも悪かったことで,どうして自分が怒られているのかについても,よく理解できなかったに違いない。

 もし,タイムマシンがあるのなら,あの頃の自分に読ませてあげたいと思うのだが,それが叶わないのは重々承知なので,今,育成牧場に勤めている新人スタッフ,そしてこれから育成牧場勤務を目指す人たちに読んでもらえたらと思う。

 サラブレッドを優れた競走馬にしていくのは,未だに接する人間の経験や勘によるところが多い。それは優れた調教師を「名伯楽」という言葉で置き換えることからも証明されている。しかし,全てのホースマンにそのような能力が備わっているわけではない。名伯楽となるためには研ぎ澄まされた感覚や研究力が必要とされる。だが,それは一朝一夕で養われるものではない。だが,この管理指針で書かれている内容は,いきなり名伯楽とはなれなくとも,優れたホースマンとなる「基礎」には充分になりうる。

 育成牧場にいた頃の自分がいつも悩んでいたこと。それは「基礎」を教えてくれる人が少ないことだった。見よう見まねも基礎となっていくのかもしれないが,納得ができない真似をしたところで自分の糧とはなっていかない。目の前にいる馬と接しながら,管理指針から基礎を学ぶ。そして現場にいる先輩たちに,経験に基づいた答えを導き出してもらうことが自分にとっても,そして馬にとっても幸せなことなのではないのだろうか。

 この管理指針の作成に携わったJRAの関係者からは,「決してこうしろという強制ではなく,JRAの各育成牧場ではこのように馬の調教を行おうというこだわりのようなものです」と話している。これからのセイウンワンダーの活躍によって,よりJRAの育成牧場で行われている「こだわり」に注目が集まり,それが広く生かされてもらえればと思う。


JBBA NEWS 2009年3月号より転載
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