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第6回 立ち写真

2009.06.01
 勝手な解釈かもしれないが,日本は世界の競馬国の中でも,最も立ち写真が美しい国だと感じる。これまでに多くの海外のスタリオンブックを見たことがあるが,そのほとんどが写真に統一性が無いのでは? と思えるほどに種牡馬の肢の位置がバラバラ。写真で個体を比較するのは不可能ではないかと思うほどである。
 その点,日本の立ち写真は素晴らしい。ほとんどの写真が統一的で,しかも背景まで考えられた構図は一種の芸術作品とも言える。日本人は美意識が高く,精巧さと緻密さに優れていると言われているが,それはこうした立ち写真にも現れている。

 これも先人のホースマンたちが築いてきた歴史と,良い立ち写真を取るための努力を続けてきたカメラマンたちのおかげであろう。様々な競馬ライターの中でも,最も頻繁に立ち写真撮影の現場に出向いているであろう私が,正しい立ち写真の撮り方について,僭越ながら指南させていただきたい。

 (立ち写真の説明は,全て顔の位置が左を向いているものとします。)

 まず,立ち写真の基本となっているのは「軸」という肢の位置である。軸となる肢は左前肢と右後肢である。この2本の肢が真っ直ぐに地面へと伸びることで,初めて「軸」は軸の意味を有する。

 軸の作り方は持ち手が一度馬を前に出し,そこからゆっくりと後ろへ馬を下げていくのが一般的である。馬を前に引っ張ってこようとすると,その勢いを持ち手が押さえきれなくなることや,また,軸が広くなってしまうからである。この時,カメラマンから「軸が広い」もしくは「軸が狭い」という指示が出ることがあるが,軸が決まれば立ち写真の撮影の半分は終わったとも言えるだけに,まずは慎重に馬を下げてもらいたい。

 次に行うのは左後肢の位置を決めることである。同時に右前肢も適切な位置に置いてくれればポーズは出来上がるのだが,2分の1を仕上げたら,一気に残りの半分を仕上げるのではなく,4分の1ずつを作っていった方が成功率は高い。左後肢が置かれるのは,馬体が伸びても詰まっても見えない位置。これもカメラマンから指示があるので,先ほど決めた軸をずらすことなく,右前と左後肢を一緒に動かして,まずは左後肢をベストポジションに決めてもらいたい。

 残るは4分の1のピースとなる右前肢の位置。できればこの時は馬を持っているスタッフとは別のスタッフが側にいて,右前肢を持ってカメラマンの指示する位置に置いてもらいたい。先ほども書いたとおりに左後肢と右前肢が一気に合うのは稀であり,しかも馬を持っているスタッフが手綱を握ったまま右前肢を動かすのは,馬から目を離してしまうこともあり危険が伴う。

 これで立ち写真のポーズは出来上がり。最後は馬の前から音などを出して馬の耳を前に向ける作業であるが,この時は顔の位置を真っ正面にするのではなく,多少,左斜め前を向かせて,カメラマンの位置からだと両耳が写真に入る方が望ましい。あとはタイミング良くカメラマンにシャッターを切ってもらうだけとなる。

 近年では当歳時のセールにおける立ち写真の添付が必要となったこともあり,産まれてすぐに立ち写真の馴致を行う牧場も増えてきた。また,オーナーや調教師に成長状況を伝えるために,1か月ごとに立ち写真を撮っている育成牧場も増えて来ている。競走馬としての能力を伸ばすために,立ち写真の馴致をすることは必ずしも必要ではないかもしれない。しかし,馬の持っている美しさや速さ,強さを表現するために美しい立ち写真を撮ることは,非常に重要な意味合いがあると感じる。

JBBA NEWS 2009年6月号より転載
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