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第32回 生産育成技術者研修

2011.08.05
 育成牧場に勤務していた頃,先輩にBTC軽種馬育成調教センターで育成調教技術者養成研修を受けた先輩がいた。
 その先輩は大学を卒業後,一度はサラリーマンとなったが,当時は第二次競馬ブームのまっただ中。馬に関わる仕事ができないかと考えた時,とある競馬紙で目にしたのが,BTCの育成調教技術者養成研修の記事だった。
 「問い合わせをしてみると,もう募集は打ち切ったと言われたんだけど,先生からの『来期も申し込んでみて』との言葉を信じて,半年間,何もせずに募集時期を待ったなあ」
 とその先輩は話してくれる。ちなみに何人ぐらいの方が入学を希望していたんですか?と尋ねたところ,なんと入学者の約20倍の人数が集まったと聞いて,入学を志した自分の心はもろくも崩れ去った。

 その時の自分に,「今はBTCもJBBAも技術者研修を申し込む生徒の数の倍率は高くないよ」と教えてあげたら,必死になってダイエットに励んだのではないだろうか?
 
 先日,BTC財団法人軽種馬育成調教センターとJBBA社団法人日本軽種馬協会が,技術者研修の体験入学会を行うとの記事を目にした。ちなみにBTCの研修だと「育成調教技術者」であり,JBBAの研修だと「生産育成技術者」と生産が加わり,調教が除かれることを付け加えておきたい。

 だが,当時の先輩のように競馬に感銘を受けて,とりあえず馬の仕事をしたいと思った人には,生産牧場だけでなく育成牧場があることや,近年の競走馬市場で欠かせない存在となったコンサイナーに代表される,中期育成の牧場があることまでは知らないのではないだろうか?

 当時の自分は,何となくといった感じで馬と接していた。見よう見まねで手入れや飼い葉作りを行い,おっかなびっくりで育成馬を馬房から出して放牧地へと連れて行った。ただ,なぜに馬を引くときは左側に立たなくてはいけないかなど,当たり前に行っている仕事の中に,幾つもの疑問が生じてきて悩むことがあった。
 素直に先輩たちに質問をぶつければ良かったのかもしれない。ただ,「そんなことも分からないのか?」と言われそうな気がして,言葉を飲み込む日々が続いていた。

 当時の自分は世間知らずの上に,頭でっかちだったと言われても仕方がない。実際にBTCの研修を終えたその先輩などに,疑問に思ったことを聞いてみれば,理解できる範囲はもっと増えたに違いない。
 馬産地ライターの仕事を始めて,様々な牧場を回らせてもらったときに,改めて気づいたことも多かった。今,目の前で見ていることを当時の自分に教えたいと思ったことも数え切れないほどあった。

 だからこそ,馬の仕事を志そうと思っている未来のホースマンには技術者研修を,せめて体験入学会を受けてもらいたい。当時の自分も,生産と育成の区別もつかないまま,牧場へと足を運んだ一人である。でも,馬に関われる仕事は数多くあり,実際に馬に接しながらそれを探していくというのは,非常に有効だと思う。

 当時に比べると,牧場側も求めているのは即戦力の人材であることは間違いない。特に育成牧場では乗り役を確保することが難しくなっており,乗馬経験者を最優先して採用に当たっている。また,生産牧場や中期育成牧場でも,馬に接した人間が欲しいのは当然のことでもある。

 だからといって,一からこの世界に飛び込んできて,牧場に欠かせない存在となっている方々を否定するわけではない。むしろ様々な仕事を積み重ね,諸先輩だけでなく,時には馬たちからも多くのことを学んでこられたことは,研修の期間では培えないほどの経験であり,きっと,こうしたホースマンの元で働けるスタッフたちや管理される馬たちも,さぞ幸せに違いない。
 馬の仕事を始める入り口が狭まっているだけでなく,そこで働こうとする人材も減っている今,こうした技術者研修制度が,牧場と人材を繋ぐしっかりとしたパイプとなって欲しい。そして迷いを持たず仕事を行い,疑問に思ったことは常に質問できるスタッフとなって,様々な経験を培っていきながら,素晴らしい馬を育てて欲しい。
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