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第33回 競馬教室

2011.09.12
 教員免許を持っていないのに「先生」と呼ばれたことがある。JRA北海道シリーズの札幌開催では,毎年,ファン向けの競馬教室が行われているのだが,そこで講師のような仕事をやらせてもらった時の話だ。
 こうしたイベントに集まってこられるファンの方は,全くの初心者か,もしくは僕よりも競馬歴の長い人生の先輩たち。どちらにも共通した話をするのは到底無理なので,馬券の種類や馬券の買い方など,初心者の方に合わせた話をさせてもらっているのだが,こうした初心者やベテランを共にうならせるネタが1つだけある。

 それは馬券を的中させること。とある競馬教室において,パドックに参加者を連れて行きパドックにおける馬の見方を,自分なりに教えていた時の話だ。その光景を見ていた知り合いの育成関係者から,「このレースにウチで調整していた馬が出ているんだけど,仕上がりもいいし,勝ち負けになるよ」との情報を聞き,参加者に対して,「このレースは●番の馬が仕上がりもいいようですし,単勝を買っても面白いかもしれません」と伝えると,その通りに教えていただいた馬が勝利。それまではどこかいぶかしげな表情をこちらに向けていた参加者たちが,次の瞬間から一気に「先生!次のレースはなんですか?」と眼をキラキラさせながら話を聞いてくるようになった。

 まあ,こんなことはそうそう無いので,だいたいは「競馬に詳しい兄ちゃん」を演じながら競馬教室を進行していくのだが,その際,いつも気をつけていることは,自分の両親を相手にするように説明をしていくということである。

 競馬場のある函館の近郊に住み,競馬関係の仕事をしている息子を持つにも関わらず,両親は競馬にそれほど興味がない。しかも母親は中学校の頃の友達が美浦の厩務員の方と結婚をして,頻繁に連絡を取り合う間柄にも関わらず,「美浦のトレーニングセンターって何なの?」と未だに息子に対して聞いてくるほどだ。

 いや,母親だけでなく父親も競馬に対して興味はあるのだろう。でも,「スタンドも新しくなったし,今度見に来れば?」と誘っても,競馬場まで行くのはちょっと...というような雰囲気を醸し出している上に,父親に関しては仕事をしている息子の姿を遠くから眺めたいと,まるで父兄参観のようなことを言い出す始末だった。

 そう考えると,競馬教室で競馬場まで足を運んでくださる方は,かなり競馬に対して関心や興味を持ってくださる方なのだろう。
このコラムを読んでくださっているのは,関係者の方が多いかと思われるが,関係者であると同時に,競馬ファンであるという方がほとんどのはずだ。では,なぜに競馬ファンとなり,そして競馬の楽しみ方を振り返った時,それを初心者の方を引き込むように説明していくというのは,意外と難しいことに気付かされる。

 それは競馬が様々な魅力を持った娯楽であるからだ。馬券的要素だけでなく,血統や馬,騎手や調教師と競馬媒体で取り上げる題材は多岐にわたっている。その全てを初心者に説明するとなると,いくら時間があっても足りないので,こうした競馬教室で自分の両親を相手にするように話していくのは,「競馬の凄さ」についての話である。

 一般のマスコミにも大きく取り上げられるようなスターホースたちのことでなく,せりにおいて高額で落札される馬たちの話をしてもいい。競馬場に万単位の人間を集めるだけでなく,スポーツ新聞の表一面を飾ること自体が,競馬の凄さを物語っているとも言える。

 だからこそ,僕は先生でも何でもないが,誇りと自信を持って,競馬の魅力を伝えることができる。競馬教室に来ていただいた方が,様々な楽しみを見いだしてファンになってもらえるのが最終目標とはいえども,せめて競馬場にまた来たいと思ってもらえたり,もしくはGⅠレースの結果が気になってもらえるようになってくれれば,充分に講師としての役目は果たせたと言えるだろう。

 でも,その後押しというか,より競馬に興味を持っていただく意味でも,やはり馬券を的中させなくてはいけないのも事実。これをお読みの皆さん,競馬教室中の村本を見かけましたら,的中に繋がる情報の提供をお待ちしております。
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