JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

第34回 GⅠ馬という素質

2011.10.11
 先日,久しぶりに北海道日本ハムファイターズ関係の仕事をしてきた。
 宝島社から9月中旬に発刊された「プロ野球 3番打者最強伝説」という書籍の中で,パリーグのリーディングヒッター争いを繰り広げる糸井嘉男外野手に話を聞いてきたのだが(ご一読よろしくお願いします),怪物ぶりを感じさせる数々のエピソードよりも,糸井選手の体の凄さにただただ圧倒された。
 一言で言うのなら,ダビデ像そのもの。半袖Tシャツの裾が破れるのではないかと思えるほどに発達しながらも,形や均整も取れた上腕筋は,作り物なのでは?と思ってしまったほど。身長は186㎝ながら体脂肪率は10%以下で,50㍍走は5秒76,遠投120㍍というとんでもない数値をたたき出すというのも,この体を見れば納得がいく。

 現在,トリプルスリー(打率3割,ホームラン30本,30盗塁)に最も近いプロ野球選手とも言われる糸井選手だが,実はファイターズに入団した頃は投手であり,しかも高校からプロに至るまで野手らしい練習をしたことは無かった。
 だが,大学の指導者は入学当初に野手への打診を図ったようだし,当時のGMだった高田繁氏もまた,150㎞を投げていた投手をすっぱりと転向させたことからも,早い時期から野手としての高い資質を見抜いていたことがうかがえる。

 それでも野手転向からわずか3年でチームの主力どころか,リーグを代表する外野手となっているのは,糸井選手の身体能力の高さとしか言いようがない。あと,もう一つ理由があるとするなら,それは野手としての資質を見い出していた関係者の眼力と言えよう。

 競馬の世界でも名伯楽と言われるホースマンが,優れた資質を持った馬を見い出し,そして名馬へと育て上げている。言葉の分かる人と,コミュニケーションを取るのが難しい馬を並列にするのもどうかと思うが,いくら優れた資質を持っていようと,育て方によっては凡庸な活躍しかできないのは,人も馬も一緒であることは間違い無い。

 以前にもこのコラムで書いたことだが,ファイターズのドラフト戦略と選手育成には定評がある。ダルビッシュ有投手と,中田翔内野手の活躍は言わずと知れたところだが,今シーズンも入団2シーズン目の増井浩俊投手が,セットアッパーとしての地位を確立。またプロ入り7年目を迎えた鵜久森淳志外野手は,ついに一軍での初ホームランを記録し,最近ではスタメン出場も珍しくなくなった。

 とはいってもファイターズに所属する全ての選手が活躍できているわけではないし,マスコミという前にファンということでひいき目のあることは否めない。ただ,ファンの視点からしても上手いチーム編成ができているなと感じるし,個性を伸ばす選手育成や選手起用ができているからこそ,常勝チームとなり得ているのだろう。

 確かに糸井選手の活躍は希な例ではある。あれだけの身体能力があれば,野球以外のスポーツを選んでいても一流となれたのであろうが,プロの野手として開花させたのは,やはり関係者の力だと思えるからだ。

 取材をしていて,冗談交じりながら「後のGⅠ馬だよ」との言葉を生産者の方から耳にすることがある。とは言っても,決してその全ての馬がGⅠ級の能力を持っているわけではないし,また,デビューまでの期間や,デビューしてからもちょっとした不運や事故などで,GⅠの舞台にたどり着けない馬もいる。

 勿論,競走馬が現役としてレースに使える時間には限りがあり,能力の開花まで待ちきれないまま競馬場を去る馬も多い。でも,近年では地方競馬への転出を挟んで,再び中央へと入厩。重賞どころかGⅠを制する馬も現れている。

 後のGⅠ馬や糸井選手のようなダイヤの原石は必ずどこかにいる。あとは関わる人間がカットして磨き上げていくかだけでなく,限りある時間の中で,正しい判断をしていくことも大切になってくる。ダイヤの原石を1つでも多く輝かせるために,プロ野球界も競馬界もやるべきことは一緒なのかもしれない。

 それにしても糸井選手の体は,馬に例えるなら間違い無くGⅠ馬。ぜひとも球場など近い場所で確認してみて欲しい。
トップへ