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第48回『ウインズ閉館に寄せて』

2012.12.18
 道南の港町生まれで札幌が地元となった自分にとって、生まれて初めて「旅打ち」がてら出向いたウインズはウインズ静内だった。
 96年の皐月賞、地元新ひだか町生産馬であるイシノサンデーが勝利した時、場内が一気に沸き返ったのを今でも覚えているのは、このレースの馬連を的中させていたからに他ならない。

 ウインズ室蘭にも年に数回は足を運んでいた。旧メジロ牧場(現レイクヴィラファーム)の取材が、不思議と土曜日になることが多く、取材が終わるとウインズまで車を走らせた。馬券の結果がどうであれ、帰りは「天勝」の天丼か、室蘭名物のカレーラーメンや焼き鳥を食べると、どこか地元の人に溶け込めたような気がした。

 ウインズ銀座通りには、まだ入ったことがない。やはり百円単位で馬券を楽しむ自分にとっては、発売金額が千円からとはブルジョアすぎる気がしていたからである。でも今度、東京に行く機会があったのなら、ここでがちがちの馬券を千円以上は買ってみたいと思う。

 先日、ウインズ銀座通りが来年の3月末に、ウインズ静内とウインズ室蘭が来年の5月末に営業終了となることが発表された。馬券発売額の減少に加え、この3つのウインズもピーク時からは大きく売り上げを減少させるなど、致し方ない理由はあるが、正直、寂しい気持ちがしてならない。

 恥ずかしながら、というか自分は「PAT」といったインターネット投票サービスに入っていない。理由はその昔、PATに申し込んでもなかなか抽選に通らないと聞かされていたので、自分とは縁遠いものと考えていたこと(現在はそんなことはありませんが)。そして数は決して多く無いながらも、払い戻し機から出てくるお金に、何かしらの達成感を覚えていることもある。

 ということで、馬券購入の際にはウインズ通いを続けているのだが、そのウインズでさえも、ファンの減少は目に見えて分かった。いや、競馬ブームだった頃は、GⅠレースのパドックを見てからだと、締め切りに間に合わないこともあったのだから、買いやすくなったことは有り難い反面、どこか寂しい気もしてくる。

 インターネット投票サービスは便利だと思うし、そう遠くない時期に入ってみようと思う。それでもウインズに通い続ける理由。それは「同じ意志を持って集まった人たちと、喜怒哀楽といった感情を共有できる空間」がウインズにあるからである。

 その昔、トレーニングセールの取材でアメリカに出向いた際、会場となる競馬場の下見に行くと、そこで他場の馬券を発売していた。全く予想のすべすら無かったものの、オッズを元に発売間近となったレースの単勝馬券を購入すると、見事に的中。その時、自分の表情がほころんだのを見た50代ぐらいの男性から「当たったのか?」ということを聞かれ、返す言葉が見あたらずに、サムズアップ(親指を上げる)を送ると、その男性も笑顔を浮かべながらサムズアップを返してくれた。

 敵意を持たれにくい容貌ということもあるのか、レースの後、見ず知らずの人から「今の2着馬は何かな?」や、レースの感想を一方的に話しかけられることもある。無視でもすればいいのだが、自分もそのレースを見て何らかの感慨を覚えたり、馬券が当たった喜びもある時には、自然に言葉もこぼれてくる。

 最近では午前中に馬券をウインズで買ってきて、家で仕事をしながらTVを見る機会も増えた。それでもレースの後には、共にウインズ札幌へと通っていた友人からの感想や、高配当が当たったことを知らせる電話やメールが来ることもある。転勤や仕事の都合などで、一緒にウインズで競馬を楽しむことこそできなくなったものの、やはり競馬ファン同士、何かしらの感情を共有したいのだ。

 開放的な競馬場と違って、ウインズはファンの感情が凝縮されたような印象を受ける。それが時代のニーズとはかけ離れているとはいえ、多くの人が競馬を楽しめる空間は、なんらかの形で残っていて欲しい。

 幸いなことにウインズ静内、ウインズ室蘭では、ホッカイドウ競馬の場外発売所であるAibaにおいて、中央競馬の馬券発売が検討されている。できることならば、多少施設に手を入れていただいて、一日中、競馬の熱気が冷めない場所にしていただけると、場外発売所好きの自分にとっては幸いである。
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