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第52回『二刀流』

2013.04.12
 最近、スポーツニュースを見る度に笑みがこぼれてしまう。必ずと言っていいほど話題に上がっているのは、我が(笑)北海道日本ハムファイターズに入団した大谷翔平選手。今日は150㎞のボールを投げたとか、今日はプロ入り初ヒットを打ったとか、とにかく話題には事欠かない。
 これも大谷選手が近年のプロ野球界では滅多に現れない「二刀流」選手だからである。高校時代には地方大会で160㎞を出した投手としての恵まれた資質に加え、3年間の通算で56本塁打を記録した打者としてのセンスとパワー。大谷選手の入団は、投打において超一流の選手を一気に2人も獲得できたという評価も納得がいく。

 今年、北海道日本ハムファイターズでは、オリックス・バファローズとの間で、糸井嘉男選手を中心とした大型トレードが行われた。球界を代表する外野手である糸井選手を放出したことは大きな戦力ダウンかとも思えたが、今では大谷選手にライトを守らせてもいいのでは?と思えているだけでなく、テキサスレンジャーズで活躍するダルビッシュ有選手の後釜にもなれるのでは?という気さえしている。

 競馬で二刀流と言うと、芝とダートの双方で活躍する競走馬となるのだろう。自分が競馬を覚え始めた頃に、条件を問わない活躍を見せていたのがカリブソング。その後もアグネスデジタル(USA)、クロフネ(USA)、イーグルカフェ(USA)、アドマイヤドンと、芝とダートでGⅠを勝利した馬が現れている。

 世界に目を移すとシングスピール、ドバイミレニアムなどが「二刀流」の一流馬に当てはまるが、それほど数は多くない。まあ、GⅠを勝つような能力を持った馬に、異なった条件を挑ませること自体が少ないということや、「餅は餅屋」ということで、その条件のスペシャリストを打ち負かすのは、なかなか大変なことなのかもしれない。

 夜にスポーツニュースを見る一方で、日中はデビュー前の2歳馬の取材をすることが多くなった。そこでは現在の調整過程や育成時の様々なエピソードを聞いているのだが、「デビュー後はどのような活躍を期待していますか?」という質問を向けることもある。

 1791年から血統を登録していたサラブレッドは、こういった場合に非常に有り難いもので、父や母、もしくは母父からおおよその競走適性を知ることができる。そこに馬体のサイズや毛色などを当てはめていけば、「血統だけでなく、馬体の特徴にも父が出ているので、芝の中長距離に適性がありそうですかね?」なんて質問もできてしまうのだ。

 しかし、時にはその質問と全く違った答えが返ってくることがある。短距離馬かと思っていた馬が「息の入りもいいし、引っかかるところも無いから距離は持ちそうだよ」や、ダート向きかと思っていた馬が「見た目とは違って軽い走りをしていて、切れる脚も使えるから芝でもかなりやれるかも」などと言われ、競馬でもその通りの結果が出た時には、やはり実際に接している方の意見が正しいと思わされるばかりである。

 しかしこうした取材で、「芝もダートもどちらも行けそう」という話はなかなか聞いたことがない。距離の融通は効きそうとの話は聞いたことがあるが、やはり様々な馬の能力を見極めてきたホースマンとはいえども、芝とダートの間には高い壁があるようだ。

 日本ではクラシックを始めとして、多くのGⅠレースが行われている芝への評価が高く、それは芝で頭打ちになった馬がダートに転向するという例にも現れている。芝よりも低く見られがちなダートであるが、最近ではダートで優れた産駒実績を残す種牡馬も現れたことによる、産駒価格の上昇。そして、交流競走の確立によって、ダート馬の地位が向上してきた印象も受ける。

 芝、ダートの二分化だけでなく、距離カテゴリーにおいても細分化が進んできた現状では、「二刀流」の活躍を見せる競走馬の誕生は、ますます難しくなっている。しかし、投打において余り有る才能を発揮している大谷選手を見る度に、サラブレッドに対しても人間が可能性を無くさせるようなことをしてはいけないと思うし、血統や馬体から受ける印象で、先入観を当てはめてもいけないのではと思い知らされる。

 とりあえず、2歳馬の取材ではこちらの先入観を押しつけるような質問は慎みたい。そして近い将来、「芝、ダートを問わない二刀流の活躍ができそうですか?」との質問ができるほどの活躍を「大谷選手」と「大谷投手」に期待する。
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