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第62回『競走馬ハンドブック』

2014.02.14
 先日、フェイスブックを眺めていると、ライターの島田明宏さんが、「競走馬ハンドブック」という本を取り上げていた。
 日本ウマ科学会が編集したこの本は、「わが国初の本格的な競走馬育成書」と銘打たれている。確かにこうした技術書は目にしたことが無いなあと思い、島田さんの投稿に、「正直高いですが、勉強のために買ってみます!」と書き込んでみた。すると島田さんは、「ゼロをひとつ見間違えていたことに気付きました」と返してくれたのだが、それもそのはず、この「競走馬ハンドブック」は、なんと16,000円もするという代物だったのである。

 後日、島田さんは「値段ぶん活用しなきゃ」とも投稿されており、それを見た自分も、せめて本の代金は回収せねばと、このコラムで書かせてもらうことにした。「競走馬ハンドブック」はB5判の全400ページからなる本で、ハードカバーの体裁、そして全ページカラーということからもかなりの重厚感と高級感がある。

 肝心の内容だが「競走馬の基礎知識」「競走馬の運動特性」「蹄と装蹄」「競走馬の運動生理学」「競走馬のトレーニング」「競馬の運動生理学」「競走馬の栄養と飼養管理」「競走馬の生産と管理」「競走馬の育成と管理」と全9章で構成されている。「競走馬の基礎知識」の章だけでも「馬の進化と家畜化」「競馬の歴史とサラブレッド」「現代の競馬」「馬体の名称と構造」に分類されており、この章だけでもしばし読みふけってしまったほどだ。

 この本を編纂している日本ウマ科学会では、以前の学術集会でディープインパクトのことを、「スターホースの走りを科学する」というシンポジウムで取り上げたことがあるが、この「競走馬ハンドブック」でも「競走馬の走法」の章の中に「三冠馬・ディープインパクトの走り」としてまとめられている。

 全400ページの本において、競走馬として取り上げられているのはディープインパクトただ1頭。「スターホースの走りを研究する」のシンポジウムにおいて、JRA競走馬総合研究所の高橋敏之氏が様々なデータから証明した、「ディープインパクトは飛んでいない=跳躍時間が短い」という衝撃の発表に関しても、改めて目を通すことができた。

 じっくりと目を通したわけではないが、全ての章を読み終えてみた時、技術書として役立てるだけでなく、牧場に入ったばかりのスタッフこそ読んで欲しいと思った。

 例えば「競走馬の栄養と飼養管理」という章の中にある「競走馬に利用される飼料とその栄養価」を読めば、普段、馬に与えている飼料がどういったものなのかを知るだけなく、なぜ馬によって配合量が違っているのかも理解することができる。

 また、「競走馬の育成と管理」という章の中にある「初期育成時の管理」では、子馬の取り扱いや引き方についても写真入りで詳しく説明されており、「騎乗馴致(ブレーキング)」ではランジングやドライビングについての説明もある。牧場に勤めていて「先輩は何の仕事をしているのだろう?」と思っていたことも、この本に目を通せば納得がいくはずだ。

 自分の経験を踏まえてのことだが、牧場で働き始めたスタッフがまず思うのは、「この仕事が、馬にはどのように役だっているのだろうか?」という疑問である。

 仕事を教えてくれる先輩こそいても、その疑問に対して的確に答えてくれる先輩は意外と少ない。それは疑問をぶつけた先輩もまた、仕事を理解する前に「こうあるべきだ」いう先輩から仕事を教わってきたからである。

 理論ばかりが先走るのはいいとは言えないが、「競走馬ハンドブック」に目を通すことでいくつかの疑問は解決されるだろうし、本で学んだことが理解できなかった場合に経験を重ねてきた先輩に疑問をぶつけたり、そして実際に目の前の馬から学ぶことで、更に仕事への理解が深まっていくはずだ。

 もし、これをお読みの牧場主の方がいらっしゃったら、休憩所や食堂といったスタッフの誰もが手に取りやすい場所に、ぜひとも「競走馬ハンドブック」を置いて欲しい。馬への理解が深まっていけば、更に仕事は楽しくなり、そして向上心も生まれていくに違いない。

 ちなみに自分と同じく島田さんのフェイスブックの投稿を目にした美浦の厩務員の方も、「競走馬ハンドブック」を購入すると書き込んでいた。記事を投稿した後に購入された島田さんを含め、確実に3冊は売れた「競走馬ハンドブック」。自分のコラムにそこまでの影響力があるかは疑問だが、興味を持たれた読者の方がいらっしゃるのなら、本を購入された後に「コラムを読んで買ってみたよ」と声をかけていただければ幸いである。
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