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第69回 『前売り指定席』

2014.09.21
 というわけで(前回のコラム参照)、新スタンドが完成し、7月26日にグランドオープンを迎えた札幌競馬場へと行ってきた。

 有り難いことに、取材という名目でJRAからパスを与えられている自分は、開門前に集まった3,285名という人垣をかき分けながら、最前列で除幕式の様子を取材。その後は一足早くファンファーレホールの中へ入らせてもらい、西宮神社の福男さながらに、パドックやゴール前へと駆け出していくファンの姿をカメラに収めた。

 この日はあいにくの雨が競馬場には降り続けていたが、それでも16,798人もの方が競馬場に足を運んでくれた。競馬に関わる者として嬉しいというか、感謝するばかりである。

 この日の競馬場には、前日から約30人の徹夜組が列を成していたと聞く。さすがにこの時期は真夏日を記録することも珍しくない札幌ではあるが、それでも日が落ちると気温が一気に10度近く冷え込むこともある。

 誰よりも早く競馬場へと入りたいのは分かるが、そこまでして並ばなくとも...と40代を超えたおじさん(筆者)は思ってしまったのだが、実際のところは、そのほとんどが指定席券を買い求めるための行列だと聞いた。

 仕事、そしてプライベートと競馬場に行き始めてウン十年。その間、指定席に入ったのは数えるほどの回数しかない。若かりし頃はパドックと馬券売り場、そしてゴール前を行ったり来たりしていたので、座るなんて考えがまるで思い浮かばなかったし、指定席に払うお金があるならば、その分、馬券を買う!という、とてもアグレッシブな生き方をしていたので、指定席は人生の成功者になってから座ろうと思っていたからだ(笑)。

 しかし、いまだに人生の成功者になってはおらず、それどころか寄る年波には勝てなくなってきた。なので最近はプライベートで競馬場やウインズに行っても、まず空いている座席を探すようになっている。

 幸いなことに開催期間中は取材パスで報道エリアに入れてもらい、取材の合間は知り合いのTV局スタッフの計らいで、放送席で休ませてはもらっている(フリーライターの席など無いのです...)。それでも座る場所があればのんびりと競馬を楽しめる、いや取材に打ち込めるのになあ、などと思ってしまった。

 確かに札幌競馬場にはかなりの数の椅子が配置されていたが、それでも約2万人を相手に椅子取りゲームをするのはなかなかしんどい。そんな時こそ指定席である。

 まあ指定席で仕事をするとは言わないが、取材パスがもらえなくなった老後に競馬を楽しもうとした際、指定席にゆったりと腰掛け、眼下で繰り広げられるレースをゆったりと見られたのなら、そのまま永久の眠りについてもいい(嘘)。しかし、老人となった自分が朝から指定席の行列に並べるかと言えば、いくら早く目が覚める体質になっていようと、それは難しいと言わざるを得ない。

 幸いなことに全国のJRAの競馬場には、65歳以上の競馬ファンが優先的に利用できるシニアシートが完備されている。でも、その年齢まではまだ20年以上もある。

 そもそも指定席を前売りにすれば、全て丸く収まる話なのだが、残念ながらJRAでは、「JRAカード」を持っている人以外の事前申し込みはできないようになっている。ということはJRAカードを作れば、これまた全て丸く収まるのだが、だからといってクレジットカードを作ることに、どこか抵抗を感じてしまうのも事実である。

 指定席を普段、購入しない人間が言うのもなんだが、そろそろ指定席の前売りを行ってみるべきではないだろうか?勿論、JRAカードの優先枠は確保しておくべきだし、早朝から並ぶ競馬ファンの分も確保しておくのももちろんだが、指定席全体の4分の1、あるいは3分の1を前売りにしてもいいのではないかと思う。

 例えばローカル開催などでは、事前に指定席を確保しておくことで、旅行の行程の中に競馬観戦を組み込むというファンも出てくるはず。また、札幌記念のようにスターホースが出てくるレースでは、旅行代理店が指定席を確保することで「観戦ツアー」も作れるに違いない。

 もちろん、指定席の前売りが実現した暁には、老人となりつつある未来の自分も、指定席の前売りに申し込み、当たった日には朝早くから競馬場へと意気込んで出かけるはず。誰もが指定席で競馬をゆったりと楽しめる、ということが周知されたのなら、一般ファンが競馬場へと足を運ぶ可能性も出てくる。

 なんだったら初心者を対象に、雰囲気を味わってもらうという意味で、午前と午後で席を交代するのもありではないだろうか。札幌競馬場の新スタンドからの見事な眺望を見る度、これを早く並べる人だけに独占させておくのはもったいない気がしている。
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