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第88回 『字幕の必要性』

2016.04.14
 先日、レギュラーコメンテーター(笑)として出演させてもらっている、グリーンチャンネルの「馬産地通信」ディレクターから、「村本さんの台本をいただけますか?」と収録後に声をかけられた。
 「馬産地通信」では収録の一週間前ほどに、ディレクターから放送内容と、その内容に添った台本が届く。その台本だが、「オープニング~季節の挨拶(以下、フリートーク)~馬産地通信スタートです!」といった、非常にざっくりしたもの。ただでさえ話下手な自分だと、この台本では収録番組でも放送事故確実となってしまうので、オープニングとエンディングはちょっとした小話を。その後の収録では放送内容に添った内容を自分でまとめる形で、もらった原稿をリライトさせてもらっている。

 これも北海道のラジオ局で放送作家を(詳しくは第71回『競馬の翻訳』のバックナンバーをお読みください)させてもらっている自分だけに、原稿に手を入れるのはお手の物。

 最近、オープニングやエンディングでくだらない話が増えたり、コメントも説明っぽいなあ...とお思いの皆さん、それは放送作家の「村本浩平」が、コメンテーターの「村本浩平」に原稿を読んでもらっているからということで了承を願いたい。

 ただ、放送作家目線で言うと、コメンテーターの村本さんは噛みまくるがばかりに、大切な内容が視聴者に伝わっていないのが、なんとももどかしい(笑)。

 と与太話はさておいて、その放送作家の村本浩平がリライトした台本を、ディレクターの方がなぜに欲しいかというと、実は今年に入ってからの「馬産地通信」は、既にお気づきの方もいらっしゃるかと思うのだが、字幕放送となっていたことが関係している。

 これも視聴者の方から、「村本浩平が何を言っているか分からない」とのクレームがグリーンチャンネルに多数届いた...からではない(この場を借りて、ご迷惑をおかけしていることは、心よりお詫び致します)。放送法の改正によって、視聴覚障害者向けの放送普及を進めていくべく、各放送局ごとに「字幕放送の拡充」「解説の拡充」を図ることになり、グリーンチャンネルでもレギュラー番組である「馬産地通信」にも字幕が付けられることになったのだ。

 とはいっても、ディレクターの方が編集室に籠もってから、コメンテーター村本の噛みまくり&辿々しい言葉を文字にするのは、非常にストレスがかかる作業でもあろう。そこで有効に活用されるのが、放送作家の村本浩平がリライトした台本となるわけだ(多分)。

 というようなことを、ディレクターの方に言ったところ、即座に否定はしてくれたが、あの苦笑いからすると正直、疑わしい(笑)。それでも、聞き取りにくいコメントを述べているつもりでも、本当に自分の話している言葉が聞き取れていない方がいられることを、この話を聞くまで全く考えていなかった。

 NHKなどのTVでも字幕放送が増えているが、時にそれはニュースといったリアルタイムの番組でも表示されている。勿論、ニュースと言えども、事前にアナウンサーの方が読むニュース原稿は用意されており、生放送のバラエティにも台本はあるが、それでも出演者が突然発したとしか思えない言葉にも、即座に字幕が付いていたのを見て、驚きを覚えるとともに感心した。

 以前、字幕放送の裏側を解く番組が放送されていたのだが、こうしたリアルタイムで行われる字幕放送の文字入力を支えているのが、「スピードワープロ研究所」に代表される字幕業務会社である。そこで働くスタッフたちは、1分間に300文字以上を入力できるという「ステノワード」といった専用のキーボードを使い、出演者が発した言葉を即座に字幕化しているのだという。

 これを見た時に、競馬のレースも字幕放送にできないか?と思い付いた。仕事をしながらのグリーンチャンネル視聴中、気を取られないようにと、ボリュームを絞ることもあるのだが、するとまるで臨場感が違ってくる。

 しかし、視聴覚障害者の方々は、同じような環境でレースを見ていたことを、今、原稿を書きながら改めて気付かされる。

 レースの中で生まれる数々の名勝負と名実況。それを文字として届けられたらどれだけ素晴らしいだろう。その一方で大きな問題は、馬名や競馬の専門用語を、どこまで文字化できるかである。

 勿論、字幕放送に対応されるスタッフの方は、高い適応力を持っておられるが、そこに競馬への造詣も深さも加わってこないと、間違った文字情報を届ける可能性も出てくるからだ。もし、文字化できなくとも、臨場感のある情報を画面から届けられたら、まだまだ、様々な方に広く競馬を楽しんでもらえるのではとも思うのだが...。
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