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第90回 『熊本地震』

2016.06.16
 自分が出演させていただいている、グリーンチャンネル「馬産地通信」#86回のコメント収録は、第1回産地馬体検査の3日目、4月14日午前の早来会場(北海道ホルスタイン市場)で行われた。「馬産地通信」#86回は番組ディレクターによる九州の牧場取材や、せりの進行を務められた浅野靖典さん自らがレポートする九州トレーニングセールが取り上げられた、まさに「九州の馬産地特集」と言える放送回。
 #86回では熊本で生産牧場を営む本田牧場を訪ね、本田土寿代表にもお話をうかがっていた。以前、そのディレクターの紹介で、北海道市場に生産馬を上場させていた本田代表にはご挨拶をさせていただいたこともあった。これはいい機会だと思い、番組を通して「いつか牧場にはうかがいたいと思いますし、ダービーに生産馬が出走した際には、グリーンチャンネルで特番を作らせていただきますので、その時もよろしくお願いします!」とのエールを送らせていただいた。

 その日の21時26分、熊本県熊本地方を震央とするマグニチュード6.5の地震が熊本を、そして九州全体を襲った。

 ロケ収録後、自宅で仕事をしていた自分は、ニュースとして飛び込んできた地震の大きさが信じられず、その後は建物の崩壊といったTVの画像を見ながら、本田代表や牧場のスタッフ、そして管理馬たちの無事を願った。

 次の日の第1回産地馬体検査4日目は、取材陣の中でも前日の地震についての会話がほとんどだった。その際、ディレクターとも地震についての話をした際に、収録の取り直しをお願いしようと思った。しかし、編集の時間を考えるとそれは難しくなることを知り、前日に自分がTVカメラに向かって話した言葉が、本田代表や九州の馬産地に向けてのエールになればと思った。

 幸いなことに本田牧場のFacebookに、「牧場も馬たちも大丈夫です。」との書き込みがあった。とても目にできる環境や心境では無いと思いながらも、「大変なところ、報告ありがとうございます。余震も続いてますし、どうかお気をつけて。」とのメッセージを書き込ませていただいた。

 しかし熊本を襲う状況は、更に悪化の一途を辿っていった。規模の大きさからして本震だと思われていた4月14日の揺れは前震であり、4月16日の1時25分には、熊本県熊本地方を震央とするマグニチュード7.3もの本震が熊本を、そして九州を大きく揺らした。

 第1回産地馬体検査の取材、そして原稿執筆の疲れもあり、早々に就寝していた自分は、朝のニュースで被害の大きさを知って言葉を失った。すぐに本田さんに連絡を取りたいとも思ったのだが、不要な連絡は真に情報の確保を求めている方の迷惑になるかとも思い、Facebookに無事を知らせる書き込みが来るのを待った。

 その後の度重なる余震と様々な被害、そして、いつまでも更新されない本田牧場のFacebookに不安が募り始めていた頃、自宅で仕事をしていた時にスマートフォンが鳴った。携帯の番号に登録されていた着信先には「本田牧場」と書かれていた。

 電話の相手は本田代表だった。僕が言葉を言おうと思ったよりも早く、「いやあ村本君、この度はTVでの連絡、本当にありがとうね」と本田代表は話してきた。自分からは放送の中で、本田さんや九州で競走馬の生産を営む方たちに、その後の状況をまるで考えていなかったようなコメントをした経緯と、それを詫びると、「そのことはいいんだよ。それよりも嬉しかったのは、村本君が『ダービーに出走する馬が出たら、特番の撮影に行きます』という言葉。あれを聞いて、より一層頑張らなくてはとの思いが生まれてきてね」

 その言葉を聞いたとき、スマートフォンを顔から離して、流れてきた涙をぬぐった。

 4月14日から更新が止まっていた本田牧場のFacebookは5月7日に更新され、そこには産経新聞の取材記事がリンクされている。

 地震の際の状況やその後、明らかになっていく被害の様子。自身も被災に遭った中でも馬を第一に考えながら生活を続け、そんな本田代表の元には、励ましの連絡が全国から届いているなどの記事が書かれており、その記事を見た時にも、少しだけ目頭が熱くなった。

 「色々大変だけど、村本君が来るのを待っているし、特番じゃなくてもいいから、ディレクターの方と牧場に来てください」と電話を切る前に話してくれた本田代表。

 その約束は必ず守らなくてはいけないし、本田牧場から日本ダービー出走馬を出すという約束もまた、この震災を乗り越えて果たしてくれると信じています。

 頑張れ熊本! 頑張れ九州の馬産地!
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