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第94回 『台風』

2016.10.17
 HBAサマーセールの一日目が行われた8月22日、この日はノーザンホースパークで行われた、JRA騎手とのファン交流イベントの取材をしていた。
 台風9号のもたらした雨により、屋外で行われるはずのイベントが屋内施設へと変更になる中、これからばんえい競馬の「JRAジョッキーDAY」にも出かけてくるという競馬ファンから、「雨は大丈夫ですかね?」と声をかけられた。

 スマホのアプリで雨雲の流れを確認すると、帯広は夕方以降も雨の影響が少なく、また道東道や日勝峠方面にも、通行止めになるような雨は降らないとの予報が出ていた。「大丈夫だと思いますが、早めに出かけた方がベターかもしれませんよ」とそのファンに伝えると、「雨もこれだけ降ると大変ですからね」との言葉が返ってきたが、次の日、当事者としてその言葉を実感することになる。

 22日の午後0時に千葉県に上陸した台風9号は、雨による被害を各地にもたらした後、23日の午前6時頃に北海道の日高地方へ再上陸する。その日の朝、テレビのニュースをつけた自分の目に飛び込んできたのは、眠気もいっぺんに覚めるような被害の映像だった。

 日高地区に住む友人の動向が気になってFacebookを見ると、新ひだか町静内の中心部が冠水した写真や、その後も、「高速を降りたセブンイレブンから、浦河方面に向かう道が通行できなくなっている」「東静内の国道が冠水していて、浦河から静内方面にも行けなくなっている」との書き込みが次々と更新されていった。

 その情報の中にはせり会場までの迂回路も書かれていた。だが、日高へは幾度となく訪れているといえども、道道を含めた細かな道の土地勘はそれほど無い。しかも、その道すらいつ通行止めになるとも分からなく、最悪の場合、災害に巻き込まれる危険性もある。

 熟考したあげく、その日はこれ以上の被害が出ないことを祈って、サマーセール2日目の取材へ行くことを断念した。

 24日、前日から交通情報をチェックしていると、道道が迂回路として使えるとの情報が入った。国道を通るより時間はロスしてしまうが、とりあえず、静内までの道は確保できたことになる。

 通常の出発よりも早く札幌を離れたものの、日高自動車道は鵡川と日高富川間で土砂崩落のために通行止め。その後、迂回路である道道に辿り着くも、大型車がすれ違えない程の道幅で、土砂崩れの跡が残り、道路の上を川のように水が流れているという悪路を通って北海道市場まで辿り着いた時には、通常の移動時間より2時間以上はかかっていた。

 しかし、その時間で北海道市場へ到着できたのは、まだ幸運だったのかもしれない。日高町門別に住む友人は、何とかして北海道市場に到着すべく、23日の時点で最長の迂回路となっていた、帯広回りでの移動を決行。また、東京から来た知り合いの馬主も、新千歳空港着の飛行機をキャンセルして、帯広着の便に切り替えていた。

 サマーセール3日目が終わり、もう日も暮れようとしていた時間に静内を離れると、それまで通行止めとなっていたはずの、日高町厚賀の門別方面から対向車が向かってくる。もしやと思い、前を走る車の列について行くと、通行止め区間を難なく通過できた。

 後で交通情報を確認すると、その日の午後6時に通行止めが解除されたらしい。しかし、その道中は土砂崩れや冠水の跡が残されており、また雨が降ったら崩落の恐れが残ったままでの、暫定的な通行止め解除のようにも思えた(実際にその数日後、雨量が増した際には通行止めとなっている)。

 サマーセールの後も、取材で日高地方に行く機会が幾度かあったが、土砂が流出した崖の下を通る度に、ハンドルを握る手が緊張していた。また、昨年の1月から高波の被害で通行止めとなっていた日高線の鵡川から様似の間は、この台風で路盤崩落に加えて、橋の流出も確認されている。予算面も含めると、完全復旧までにはかなりの時間を要することは間違いない。

 その後、北海道に上陸した台風10号がもたらした大雨でも、十勝地方や上川地方に甚大な被害が出ている。貴重な人命が失われただけでなく、基幹産業である農業は浸水被害に見舞われ、道央圏と道東を結ぶ国道274号線と国道38号線は、橋が流されるなどの被害が出ていて、復旧の目処すら立っていない。

 この原稿を書いている今も、窓の外では雨が降り続いている。被害に遭われた方にとっては、あまりにも残酷過ぎる秋の長雨。誰もが笑顔になるような台風一過となる日は、いったい、いつやってくるのだろうか。
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