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第105回 『馬産地通信、九州へ PartⅡ』

2017.09.13
 宿泊を予定している鹿児島県の鹿屋市内のホテルに向かっている僕に対し、電話の向こうにいる本田土寿さんはいつ頃到着するのかを聞いてくると、「なら、村本君が来るまで飲んでいるから早くおいで」と話してくる。
 その会話をレンタカーのハンドルを握りながら聞いていた馬産地通信ディレクターのHさんも、「これは急いで行かなきゃ駄目ですね」と雨で視界が利かない中ながらもアクセルを踏み始めた。ホテルへの到着は午後10時近くになり、そこから居酒屋に向かったのだが、そこには約束通りに本田さんと、明くる日の九州1歳市場でせりの進行を務める競馬キャスターの浅野靖典さん、そして、同じホテルに宿泊していた本間忍調教師の姿もあった。

 鹿児島市内でしろくまとラーメンとチャーハンを食べたばかりに、皆さんを待たせてしまうとは...と反省をしたものの、そんな自分の動揺を解きほぐすかのように、本田さんや九州軽種馬協会の職員の方は飲み物や食べ物を勧めてきてくれる。その中にいたのが本田さんのご子息で、現在は日本軽種馬協会九州種馬場に勤務する本田博代壽(ほんだはやと)さんだった。

 博代壽さんは熊本出身ながら、高校を卒業すると帯広畜産大学へと進学。そこで獣医師の資格を取り、日高軽種馬農業協同組合に勤務していた経歴がある。

 つまり、自分が全く知らない九州の馬産だけでなく、自分がよく知る北海道の馬産についても情報を交換できる存在でもあり、必然的に博代壽さんと話をする時間が増えていた。

 その際に博代壽さんが九州の馬産について語っていたことは、後継者不足と生産者の高齢化という、日高とも共通する問題だった。

 現在は大崎町にある九州種馬場に勤務しながら、休みの日には本田牧場で父の手伝いをしているという博代壽さんだが、九州でも後継者のいる牧場は少ないと教えてくれる。

 そのような話をしてうちに宴はお開きとなり、居酒屋にいたメンバーのうち、せり上場馬の様子を見に行くという本田さん以外が宿泊先のホテルへ戻ったのだが、翌日の朝食会場では、せりに参加するであろう競馬関係者の姿を何人も目にすることとなった。また、せりが行われる九州種馬場も、レンタカーを止める場所が無いほどの賑わいを見せていた。

 せりに先駆けて行われたのが比較展示と、せり上場馬を対象とした品評会。せりの前に品評会を行うというのは、長く取材をしてきて初めてのことであったが、上場頭数が少ないこともあり、馬体以外にも常歩の動きを見せることで、より上場馬に興味を持ってもらうという狙いもあるのだろう。

 その品評会では本田さんも忙しく動き回っていたのだが、確かに博代壽さんのような、若い世代の生産者の姿があまり見受けられないことに気付かされた。

 それでも品評会には多くの購買者が上場馬の周りを取り囲んでおり、これからさぞ活発な取引が行われるのではと想像させてくれた。

 その品評会で最優秀賞に輝き、最初の上場馬として姿を見せたフォンティーンの2016(父ダノンゴーゴー(USA))にハンマーが落ちてから3頭連続で落札され、好調なスタートを切った市場ではあったが、そこからの上場馬には最初の一声がかからなくなっていく。

 結果はJBBA NEWSにも掲載されていたが、15頭の上場で8頭が落札されて、売却率は53.3%。売却総額、平均価格などほとんどのポイントにおいて前年超えを果たしたものの、それでも昨年を超える購買登録者があったことを考えると、いささか寂しい結果にも思えた。

 せりの終了後、柏木務九州軽種馬協会長にお話を聞かせてもらったのだが、「購買者の希望が特定の馬に集中したことで、売り上げが伸び悩んだ印象を受けます。来年は更に上場頭数を増やして、活発なせりが行われるようにしていきたいです。」との言葉が聞かれた。

 確かに九州全体の生産頭数は伸び悩んでいる。2016年に九州管内で誕生したサラブレッドの頭数は47頭。その約3割が九州1歳市場に上場してきたとも言えるが、そう考えたとしてもあまりにも分母が少ない。

 勿論、生産馬の中には「カシノ」の冠名で知られる柏木会長のように、生産者が自ら競馬に使う馬も含まれており、これ以上せり上場馬を増やすには、やはり生産頭数を増やす以外にはあり得ない気もしてくる。

 だが、九州管内でも生産者の高齢化が進む中、繁殖牝馬を増やしていくことは体力面でも難しいことなのだろうし、何よりもせりの評価額を見ていると、経営面でのリスクも大きい。そんな中、馬産地通信の取材に応じてくれたある生産者の前向きな言葉に、沈鬱な気持ちが少しだけ晴れた。
 (次号に続く)
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