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第92回 『夏競馬』

2016.08.16
 ダービー、安田記念が終われば、中央競馬は夏競馬に突入する(厳密にはさらにもう1週後)。美浦のトラックマンも北海道組は函館へ出張し、記者席は少し寂しくなる。さらに宝塚記念が終われば、東は福島開催となる。出張者からのお土産が並ぶと夏競馬が始まったと実感する。
 長期滞在となる北海道組は気候もよく、競馬記者憧れの出張だ。かつては筆者も週単位での出張は経験あり、滞在しているTMや支社長などにおいしいお店に連れて行ってもらったものだ。北海道出張は毎年だいたい同じ顔ぶれになるが、今注目の後輩M山TMは生まれは旭川、競馬場の向正面の大学出身という北海道担当となるために入社してきたような男で、朝から夜まで大活躍との噂を聞く。

 かつてのような長期滞在はなくなったが、福島、新潟出張も「移動がキツイ」と言っている割には楽しそうだ。ただ、毎週のように2ヵ月も続くとなるとどうかと感じもするが。

 しかし、我々地方競馬担当者には中央競馬担当のような夏競馬感は微塵もない。移動も出張もない。なにしろ年がら年中、大井競馬、川崎競馬、船橋競馬、浦和競馬をぐるぐる巡っている。ナイター競馬も今では3月末から12月半ばまで行われており、かつてのような「夏の風物詩」感もまるでない。唯一あるとすれば、気温が違う事ぐらいだろう。近年、首都圏の夏の夜は猛烈に暑く、ただ立っているだけで自分の汗でびしょ濡れになる。

 以前は中央競馬が本場所から離れてある程度過ぎると「馬が恋しくなって」ファンが地方競馬を訪れる傾向があった。夏場は概ね春の1.5倍から2倍弱の平均入場者ではあるがしかし、在宅投票全盛の昨今、お盆休みを除いては入場人員の著しい増加もない。

 夏になれば都内各所で大規模なイベントが行われる。近年では夏フェスなどの音楽イベントが盛り上がりを見せている。競馬場でも夏のイベントを開催しているが、競馬開催中は一定の間隔でレースが行われるため、長い時間のイベントは難しく、花火やスタンド前でのすべてのお客さんが観られるようなライブも、結局は馬を驚かせる危険性があるため、競馬開催前や終了後に行われることが多く、競馬開催との融合というか、一体感を煽ることは難しい。結果的にグルメ系のイベントに偏ることが多い。

 もうひとつ考えられるのは「便乗型イベント」か。お盆と年末の開催が必ずコミケと被る大井競馬。極々まれにコミケ→東京大賞典の重複客層が見受けられるが、それが多いかというとそうでもないし、増えているかというとそうでもない。重複客の判別は抱えている袋でわかるので、比較的容易であり、実数を数えたわけではないが、景色として実感できる。

 数年前の東京シンデレラマイル当日にアニメキャラクターの声優さん達によるユニットのミニライブが内馬場で行われたが、雨天にもかかわらず沢山のヲ...いや、お客さんが来場され、各声優さん達の予想を元に馬券を買うヲ...いや、お客さんの姿が見受けられた。

 一般的にどこの公営競技場でも、イベントで来場した有名人の予想ステージの通りに買うお客さんなど、ほぼ皆無だと思われるが、彼らは違う。恐らく予想通りの馬券を買うことで、短い会話が出来る握手会等で次に会えた時の会話に繋げるのだろう。うまく出来ている。

 というわけで、大体どこの競馬場も、特にナイター開催の3場は定石通り酒や肉が主体である。内馬場にビーチを作ったり、バーベキューが出来たり、会社帰りのサラリーマン層をターゲットに据え、毎年同じような趣向だが、それが一番手堅いし、それしか出来ないのだろう。そして我々は仕事中なので飲めない。

 唯一冒険できるとすれば、昼間の浦和競馬だろうか。あのあたりは夏場日陰で35度、日なたで40度以上はあるだろう。飲み物以外の冷たいものはきゅうりぐらいで、あとは焼き鳥やフライなど熱いものだらけだ。それを逆手にとる手はある。死人が出ない程度に。

 夏は年末年始に次ぐ稼ぎ時である。少しでも多くのファンを集めたところが、夏を制する?
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