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第38回 崩れた仮説

2014.05.16
 4月23日の夜、東京・大井町駅前にある中華料理店・華林の2階で、僕は競馬仲間3人と遅めの夕食をとっていた。話題はつい数時間前に大井競馬場で見た羽田盃。ハッピースプリントの強さだった。
 「ジャパンダートダービーでアジアエクスプレス(USA)と対決しませんかねえ」「互角の勝負になりそうですよ」

 門別競馬場でデビューし、北海道2歳優駿(門別)、全日本2歳優駿(川崎)を制覇。南関東に移籍後も京浜盃(大井)、羽田盃を連勝した。敗れたのは中央の芝レースに挑んだ函館2歳Sとコスモス賞の2戦だけ。ダート戦に限れば7戦7勝の負け知らず。昨年、2歳の身でNAR(地方競馬)グランプリの年度代表馬に選ばれただけのことはある。文句のつけようがない快進撃だ。

 ハッピースプリントの話題が一段落すると、今度は皐月賞の話になった。すると競馬仲間の一人のSさんがこんなことを言い出した。

 「イスラボニータはダービーを勝てないと思うんですよね」初めての中山競馬場、初めての2,000m、約2ヵ月ぶりの実戦といくつもの課題を克服し、1分59秒6の好時計で皐月賞を制した実績馬。4戦4勝の東京競馬場に舞台を移すダービーでは最有力候補になることは間違いない。そんな本命馬に僕の競馬仲間は敢然と挑戦状をたたきつけた。「イスラボニータはダービーを勝てない」という彼の根拠はただひとつ。「牝馬に負けているから」だ。

 デビュー2戦目の新潟2歳S。後方から追い込んだイスラボニータのさらに外側を1頭の牝馬が並ぶ間もなく駆け抜けていった。それが後の桜花賞馬ハープスターだった。ゴールでは3馬身差をつけられていた。

 牝馬に負けたことがあるとダービーに勝てないのか。さっそく調べてみることにした。昨年のキズナはどうだろう。3戦目のラジオNIKKEI杯2歳Sで3着、その後の弥生賞で5着になっているが、先着を許した6頭はいずれも牡馬。確かに牝馬に負けてはいなかった。2012年のディープブリランテもダービーまでに3敗しているが、負けたのはゴールドシップ、グランデッツァ、ワールドエースといずれも牡馬の3頭だけだった。

 2011年はオルフェーヴル。ついに例外が見つかった。デビュー2戦目の芙蓉Sで牝馬ホエールキャプチャの逃げ切りを許し、首差の2着になっていた。続く京王杯2歳Sでは、まさかの10着に惨敗しており、4着になった牝馬ライステラスに敗れている。僕の競馬仲間のいう「牝馬に負けた馬はダービーを勝てない」というSさんの法則は早くも崩壊した。しかし調べ始めたのだから、もう少しさかのぼってみたい。ダービー優勝馬はどんな軌跡をたどって頂点に立ったのか。ダービーまでの戦績と先着した馬の数、先着を許した馬の数、敗れた牝馬の馬名を並べてみる。

 ■キズナ6戦4勝(53勝6敗、なし)
 ■ディープブリランテ5戦2勝(61勝4敗、なし)
 ■オルフェーヴル7戦3勝(81勝13敗、ホエールキャプチャ、ライステラス)
 ■エイシンフラッシュ6戦3勝(61勝9敗、マイネアロマ、テイラーバートン)
 ■ロジユニヴァース5戦4勝(47勝13敗、なし)
 ■ディープスカイ10戦3勝(116勝14敗、コウヨウマリーン)
 ■ウオッカ6戦4勝(74勝2敗、ダイワスカーレット)
 ■メイショウサムソン10戦5勝(103勝8敗、なし)
 ■ディープインパクト4戦4勝(40勝0敗、なし)
 ■キングカメハメハ6戦5勝(59勝2敗、なし)

 過去10年を振り返ってみると、牝馬のウオッカもいて単純な比較はできないにしても、エイシンフラッシュやディープスカイは牝馬に負けたことがあったし、ディープブリランテなどのように勝率5割に満たない成績でダービーを勝った例もある。

 イスラボニータは皐月賞まで6戦5勝。先着した馬の数82頭、先着された馬はハープスターわずか1頭。ここまでの実績はディープインパクトやキングカメハメハ級だといっていい。イスラボニータが皐月賞、ダービーの2冠に輝けば、ハープスターばかりでなく、2頭のクラシック馬を生み出した新潟2歳Sの価値はさらに上がることになる。
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