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第41回 完売の背景

2014.08.14
 今年も夏の風物詩・セレクトセールを取材するため北海道苫小牧市のノーザンホースパークにお邪魔した。サッカーのワールドカップ決勝があったため、初日の7月14日は不参加、2日目の当歳市場から取材に加わった。
 競馬関係者なら自然とため息が出る血統馬が次から次へとセールリングに登場し、これまた次から次へと落札されていった。2日間で475頭(1歳255頭、当歳220頭)が上場され、このうち404頭(1歳215頭、当歳189頭)が落札された。売り上げ総額の125億7,505万円は過去最高だった昨年を上回り、落札率の85.1%も新記録になった。決して好景気とはいえない経済状況の中、上場馬のレベルを高く保ち、開催に力を注ぐ方々の努力には頭が下がる。

 今回のセレクトセールを見ていて気づいたのがハーツクライ、ステイゴールド産駒の人気の高さだった。現在のチャンピオンサイアーであるディープインパクト産駒は相変わらず高い評価を得ていたが、そのディープインパクト産駒でさえ、落札されず、主取りになったケースが1頭あったのに対し、ハーツクライ産駒は上場26頭、ステイゴールド産駒は22頭すべてが落札され、「完売」を記録した。

 理由は重賞レースでの強さだろうと想像する。
 7月13日現在、JRAの平地重賞は68レースが終わったが、勝ち星では16勝のディープインパクトが首位を独走している。ハープスターの桜花賞、ミッキーアイルのNHKマイルカップ、ヴィルシーナのヴィクトリアマイルとGⅠレースでも3勝と中身も濃い。
 質量ともに他を圧倒しているディープインパクトに対し、ハーツクライとステイゴールドは質の高さで迫っている。

 ハーツクライ産駒の重賞勝ちは2位の7勝だが、そのうち3勝がGⅠレースだ。ヌーヴォレコルトのオークス、ワンアンドオンリーのダービー、ジャスタウェイの安田記念と3週連続の優勝は相当なインパクトがあった。ステイゴールドは5勝でフジキセキと並んで3位。フェノーメノの天皇賞・春、ゴールドシップの宝塚記念と4割の2勝がGⅠレースだ。GⅠ制覇を果たした種牡馬は6頭いるが、そのほかは皐月賞制覇したイスラボニータの父フジキセキ、高松宮記念優勝コパノリチャードの父ダイワメジャー、フェブラリーSを快勝したコパノリッキーの父ゴールドアリュールで「種牡馬3強」以外は1勝にとどまっている。

 種牡馬を評価する指数にアーニング・インデックス(E・I)という数字がある。期間内のレースの賞金を合計し、出走馬1頭当たりが獲得できる賞金を出す。これに対し、どれだけ稼いでいるかを示すのがE・Iだ。1.00が平均値で、それを超えれば標準以上だ。

 7月13日の時点でJRA全レースを集計した獲得賞金順の種牡馬ランキングは1位がディープインパクト。その数字は322頭が1,026回出走し、93頭の勝ち馬が合計116勝を挙げた。獲得賞金の合計は31億4,204万3,000円。気になるE・Iは2.20。ディープインパクト産駒は平均的な競走馬に比べ、1頭当たり、2.20倍の賞金を稼いでいるということを表している。

 ハーツクライは賞金ランク3位でE・Iは2.03。ステイゴールドは賞金順7位でE・Iは1.30にすぎない。ディープインパクトのライバルとはいえない数字しか残していない。

 ところが重賞レースに限るとE・Iは一変する。ディープインパクトが1.80なのに対し、ハーツクライは4.04、ステイゴールドは2.06となる。レベルの高いレースほど成績を挙げているわけだ。「いい馬が欲しい。できれば重賞レースで活躍するような馬が」。そうした思いが、ハーツクライ、ステイゴールド産駒の人気を押し上げた。2頭はともにセレクトセールでは初めての1億円馬を今年送り出した。
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