JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

第68回 「本命」

2016.11.14
 10月10日に京都競馬場で行われた第51回京都大賞典(GⅡ、芝2400㍍)は単勝1.8倍という圧倒的な1番人気に支持されたキタサンブラック(牡4歳、栗東・清水久詞厩舎)が優勝した。
 通算7勝目。重賞は2015年のスプリングS、朝日杯セントライト記念、菊花賞、2016年の天皇賞・春に続く5勝目となった。

 キタサンブラックは不思議な競走馬だ。菊花賞、天皇賞・春と二つのビッグタイトルを持っているにもかかわらず、それまでの11戦で1度も1番人気になったことがなかった。京都大賞典はデビュー12戦目にして初めて本命馬として迎えたレースだった。

 2015年1月31日に東京競馬場で迎えたデビュー戦は16頭立ての3番人気だった。芝1800㍍で行われたレースでは後方を進み、ゴール前は外側をしぶとく伸び、先頭でゴールした。

 レース後の記念撮影にはオーナーの歌手・北島三郎さんの姿があった。「新馬を勝つような馬はその後も楽しみなんだ」とおっしゃっていたのを昨日のことのように思い出す。清水調教師の話も印象に残っている。「僕にも調教できるぐらいおとなしい性格なんですよ」。キタサンブラックの穏やかな気質はデビュー前からのものだった。

 父はブラックタイド。2001年、サンデーサイレンス(USA)とウインドインハーヘア(IRE)との間に誕生した。あのディープインパクトの1歳年上の全兄という血統だ。母はシュガーハート。2005年に父サクラバクシンオー、母オトメゴコロとの間に生まれた。レースに出走することはなく、そのまま繁殖牝馬となった。

 キタサンブラックが実績の割に人気にならない理由は、この母方の血統にある。母の父サクラバクシンオーという点で、どうしても距離の限界を感じさせてしまうのだ。母の父にサクラバクシンオーを持つ競走馬で、2000㍍以上の平地重賞で勝ったことがあるのは、キタサンブラックを除けば、アデイインザライフ1頭のみだ。アデイインザライフは今年9月の新潟記念(芝2000㍍)で優勝した。

 父にサクラバクシンオーを持つ競走馬となると、さらに距離に限界を見せる。1800㍍以上の重賞で勝ち星を挙げたのはメジロマイヤー1頭だけである。メジロマイヤーは2002年に京都競馬場の芝1800㍍で行われた第42回きさらぎ賞を制している。

 3000㍍の菊花賞や3200㍍の天皇賞・春をこなしていくキタサンブラックにはいつも驚かされている。

 ただ興味深いデータもある。障害レースでのサクラバクシンオー産駒の好成績だ。1997年に生まれたブランディスは平地で3勝を挙げた後に障害に転向。その初戦こそ4着に終わったが、2戦目で障害初勝利を挙げるとジャンパーとしての才能を発揮。ついには2004年に中山大障害と中山グランドジャンプと二つのJ・GⅠを制した。ほかにもサクラバクシンオー産駒のエーシンホワイティが重賞の新潟ジャンプSを含め障害レースで計6勝を挙げている。

 勝っても人気にならないキタサンブラックと対象的に、負けても人気の落ちなかった競走馬がブエナビスタである。

 2008年10月のデビューから2011年12月の有馬記念まで国内で21戦9勝の成績を残した名牝は、デビューから19戦目の天皇賞・秋まで19戦連続で1番人気に支持された。これが現時点での1番人気の最多連続記録である。

 そのブエナビスタの初子である牝馬コロナシオンが10月16日に京都競馬場でデビューを果たした。父はチャンピオンサイアーのキングカメハメハ。これ以上ない良血馬だ。当然のように1番人気に支持された。

 芝1800㍍は1000㍍通過が1分3秒1というスローペースになった。10頭立ての8番手で進んだコロナシオンだったが、残り200㍍あたりでルメール騎手に促されると一気に加速。前で粘り込みを図るライバルたちをなぎ倒すようにかわし、先頭でゴールした。推定の上がりタイムは33秒8。その切れ味は間違いなく母譲りだった。母から娘へ。1番人気という注目度の高さもまた受け継がれたようだ。
トップへ