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第75回 「魔術」

2017.06.12
 4月30日、京都競馬場でキタサンブラックが天皇賞・春を制してから、およそ2時間たったころ、香港・シャティン競馬場で快挙が達成された。日本から遠征したネオリアリズム(牡6歳、美浦・堀宣行厩舎)がクイーンエリザベス2世C(芝2000㍍)で優勝し、GⅠ初制覇を海外で飾った。
 クイーンエリザベス2世Cでの日本調教馬の優勝は2002、2003年に2連覇したエイシンプレストン(USA)、2012年のルーラーシップ以来5年ぶり4度目のこととなった。

 ネオリアリズムの3歳年上の半兄はリアルインパクトだ。リアルインパクトは2015年にオーストラリアのローズヒルガーデンズ競馬場で行われたジョージライダーS(芝1500㍍)で優勝して、GⅠタイトルを手にしている。日本調教の兄弟馬がともに海外でGⅠを制したのはリアルインパクトとネオリアリズムの例が史上初めてのケースになった。

 そんな偉大な記録が達成されたのは、ひとえにジョアン・モレイラ騎手の手腕による。クイーンエリザベス2世Cは超のつくスローペースになった。後方を進んでいたネオリアリズムのモレイラ騎手はこのスローペースを見越して、向こう正面で一気に先頭に立った。そして、そのままゴールまでライバルの追い込みを封じた。「モレイラ・マジック再び」。ブラジル出身で香港を拠点に活躍する33歳は日本調教馬とコンビを組んで次々とGⅠレースを勝っている。3月にはアラブ首長国連邦のメイダン競馬場であったドバイターフで日本のヴィブロス(牝4歳、栗東・友道康夫厩舎)に騎乗して優勝したばかりだった。

 今年に入って海外GⅠを制した日本調教馬はヴィブロスとネオリアリズム。そのどちらにもモレイラ騎手が乗っていた。

 日本調教馬と外国人騎手。このところ海外GⅠで実績を残している組み合わせだ。2011年以降の日本調教馬の優勝例を列挙してみる。

【2011年】ドバイワールドカップ(ヴィクトワールピサ=M・デムーロ騎手)
【2012年】クイーンエリザベス2世C(ルーラーシップ=リスポリ騎手)■香港スプリント(ロードカナロア=岩田騎手)
【2013年】香港スプリント(ロードカナロア=岩田騎手)
【2014年】ドバイデューティーフリー(ジャスタウェイ=福永騎手)■ドバイシーマクラシック(ジェンティルドンナ=ムーア騎手)■豪オールエイジドS(ハナズゴール=ローウィラー騎手)■豪コーフィールドC(アドマイヤラクティ=パートン騎手)
【2015年】豪ジョージライダーS(リアルインパクト=マクドナルド騎手)■香港マイル(モーリス=ムーア騎手)■香港C(エイシンヒカリ=武豊騎手)
【2016年】ドバイターフ(リアルスティール=ムーア騎手)■香港チャンピオンズマイル(モーリス=モレイラ騎手)■仏イスパーン賞(エイシンヒカリ=武豊騎手)■香港ヴァーズ(サトノクラウン=モレイラ騎手)■香港C(モーリス=ムーア騎手)
【2017年】ドバイターフ(ヴィブロス=モレイラ騎手)■クイーンエリザベス2世C(ネオリアリズム=モレイラ騎手)

 以上18勝のうち「日本調教馬=外国人騎手」の組み合わせは13例を数える。最近3年で優勝した「日本調教馬=日本騎手」はエイシンヒカリと武豊騎手の組み合わせがあるだけだ。

 同じ現象は日本国内でも起きている。M・デムーロ騎手とルメール騎手が通年免許を取得した2015年以降、2017年5月のヴィクトリアマイルまで平地のJRAGⅠレースは52レースが行われ、「日本調教馬=M・デムーロ騎手」が最多の9勝、「日本調教馬=ルメール騎手」が5勝で続き、3番目が「日本調教馬=武豊騎手」という結果だ。

 日本の騎手の力量が外国人騎手に比べて劣っているとはまったく思わない。不足しているものがあるとすれば、それは「一流馬に騎乗した経験」ではないだろうか。武豊騎手や往年の岡部幸雄騎手を見ていて感じるのは超一流馬に乗った経験をほかのレースで生かしている点だ。騎乗する馬の「何が優れていて何が欠落しているか」を理解しているから、自らの技術で、それを補ったり、補強したりして勝利に結びつけることができる。

 日本の騎手のために現状は良くない、と危惧している。
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