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第5コーナー ~競馬余話~

有吉正徳 第5コーナー ~競馬余話~

第94回 「CM」

 2018年のジャパンカップに向けて、テレビで流されたJRAのCMは、なかなか面白かった。

 スタート直前の輪乗りが行われているスターティングゲートの目の前で土屋太鳳が突然叫び出す。「私、すごいことに気づきました。この1番と3番、あと6と7。お父さんがおんなじなんです」。すると高畑充希が「ほんとだ。兄弟だ」と返す。続いて松坂桃李が「さらにすごいことに気づいたんだけど......。ここにもそのお父さんの名前、書いてある」。「母の父」と高畑。

 その後も何度かのやりとりがあり、最後は「名馬の子孫が走っている」というキャッチコピーでCMは締めくくられる。柳楽優弥を加え、JRAのCMに登場する4人は競馬初心者という設定だ。一部に不正確な知識も披露するが、僕は今回のCMで「いいところに気づいたね」と登場人物たちに声をかけてやりたかった。

 2018年12月9日に行われた第70回阪神ジュベナイルフィリーズ(JF)は、血統に興味を持ち始めたファンに教えたくなる見どころがいっぱい詰まったレースになった。

 CMが予言していたように同一種牡馬の産駒が4頭出走した。ダイワメジャー産駒だ。枠順の内から順にジョディー、メイショウショウブ、サヴォワールエメ、グレイシア。ダイワメジャー産駒は2015年にメジャーエンブレムが優勝し、翌2016年はレーヌミノルが3着になるなど阪神JFでは好成績を残してきた。今回はメイショウショウブの6着が最高で、メジャーエンブレムの再現はできなかったが、GⅠレースに4頭を送り込むなど相変わらず2歳戦での強さを発揮。阪神JFが終了した時点でJRAの2歳リーディングサイアーの部門では3位につけていた。競馬初心者に「ダイワメジャーの子は2歳戦に強いんだよ」と教えられる材料になる。

 ダイワメジャーで思い出されるのは3歳年下の半妹ダイワスカーレットだ。桜花賞や有馬記念などGⅠレース4勝を挙げた名牝である。そのダイワスカーレットの同期のライバルがウオッカだった。

 2008年秋の天皇賞は今も「平成の名勝負」として語り継がれる。2番人気のダイワスカーレットがハイペースで逃げ、1番人気のウオッカが必死に追いすがり、2頭が同時にゴールした。およそ15分にも及んだ写真判定の結果はウオッカの勝利。その差は約2センチだった。

 ウオッカの娘タニノミッション(IRE)がこの阪神JFに出走していた。

 ウオッカもダイワスカーレットも母になり、ウオッカは5頭、ダイワスカーレットは6頭の産駒が中央競馬で走ったが、「名牝の子必ずしも名馬ならず」。GⅠレースへの出走はタニノミッションが初めてだった。首を長くして名馬2世の誕生を待っていたファンにとってタニノミッションはついに現れた希望の星だった。

 1勝馬同士の抽選をくぐり抜けて出走したタニノミッションはインコースでしぶとい走りを見せたが、7着になり、期待された母娘2代制覇はならなかった。だが将来への可能性は示した。

 クロノジェネシスとビーチサンバの2頭の関係も面白かった。2頭はともに1990年生まれの牝馬ラスティックベル(USA)を礎にする同じ牝系に属する。ビーチサンバがラスティックベルの孫、クロノジェネシスがひ孫にあたる。

 クロノジェネシスは優勝したダノンファンタジーと最後の直線で400㍍にわたるマッチレースを演じ、惜しくも1/2馬身差の2着に敗れ、ビーチサンバはこの2頭に続く3着になった。近い血統の同世代の2頭が続いてゴールした。

 冒頭のJRAのCMでは「その馬の息子と孫が一緒に走るってこと」「これ運動会だったら、なかなかの光景ですね」という会話がかわされる。

 そう、サラブレッドの世界では名馬ほど色々なところで血統書に顔を出し、次世代にも影響を及ぼす。それは種牡馬だけでなく、牝馬にもいえる。世代交代の時間は人間と比べものにならないぐらい回転が速いので、「息子と孫が一緒に走る」ことも頻繁に起きる。JRAのCMはきわめて基本的な競馬の常識を面白おかしく伝えていた。そして阪神JFはCMを現実にしてみせた。