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第117回 「相棒」

2020.12.10
 11月15日に行われた第45回エリザベス女王杯は1番人気のラッキーライラック(牝5歳、栗東・松永幹夫厩舎)が優勝し、昨年に続く2連覇を果たした。エリザベス女王杯の2連覇はメジロドーベル(1998、99年)、アドマイヤグルーヴ(2003、04年)、そして英国調教馬スノーフェアリー(2010、11年)に次ぐ史上4頭目の記録だった。
 ただし2連覇といっても、今年のエリザベス女王杯は41年ぶりに阪神競馬場で行われており、ラッキーライラックは京都競馬場と阪神競馬場という二つの異なった競馬場でエリザベス女王杯を2連覇するという珍しい記録を作った。

 グレード制が導入された1984年以降、異なる競馬場でGⅠを2連覇した例はラッキーライラック以前に2例あった。シンボリクリスエス(USA)は、2002年(中山)と03年(東京)に天皇賞・秋を制し、キンシャサノキセキ(AUS)は2010年(中京)と11年(阪神)に高松宮記念を連覇した。連覇ではないが、カネヒキリは2005年(東京)と08年(阪神)のジャパンカップダートで計2勝を挙げている。

 異なる競馬場でエリザベス女王杯を連覇したユニークなラッキーライラックは、さらにユニークな記録の持ち主だ。それはGⅠ4勝をすべて違う騎手とのコンビで挙げたことである。2017年の阪神ジュベナイルフィリーズは石橋脩騎手、19年のエリザベス女王杯はクリストフ・スミヨン騎手、20年の大阪杯はミルコ・デムーロ騎手、そして今回のエリザベス女王杯はクリストフ・ルメール騎手とタッグを組んで優勝した。エリザベス女王杯の2連覇はいずれも「テン乗り」といって、実戦で初めてコンビを組む騎手とともに優勝を飾っている。誰とでも気心の合う精神面の順応性が高いのだろう。

 GⅠを4勝以上している馬のうち、4人の騎手でGⅠ制覇を果たしていることで有名なのはウオッカだ。四位洋文騎手で2006年の阪神ジュベナイルフィリーズと07年のダービーを制し、岩田康誠騎手で08年の安田記念を勝ち、武豊騎手で08年の天皇賞・秋、09年のヴィクトリアマイル、同年の安田記念と3勝。ルメール騎手で09年のジャパンカップで1着になった。

 ブエナビスタも4人の騎手で6つのGⅠレースを制している。安藤勝己騎手で2008年の阪神ジュベナイルフィリーズ、09年の桜花賞とオークスと計3勝。その後、横山典弘騎手で10年のヴィクトリアマイル、スミヨン騎手で10年の天皇賞・秋、岩田康騎手で11年のジャパンカップを勝った。

 ジェンティルドンナも4人の騎手によって国内外合わせて7つのGⅠで1着になっている。岩田康騎手で2012年の桜花賞、秋華賞、ジャパンカップと3勝。川田将雅騎手で12年のオークスに勝ち、ライアン・ムーア騎手で13年のジャパンカップと14年のドバイシーマクラシック(アラブ首長国連邦)で2勝。戸崎圭太騎手で引退レースとなった14年の有馬記念を制した。

 こうしてみると、ラッキーライラック、ウオッカ、ブエナビスタ、ジェンティルドンナと「騎手を選ばない強豪」は牝馬ばかりだ。

 これに対し、牡馬は固定化されている。26戦すべてに騎乗し、GⅠ7勝すべてを和田竜二騎手とのコンビでつかんだテイエムオペラオー、全14戦で武豊騎手が手綱を取り、GⅠ7勝したディープインパクト、岡部幸雄騎手と全16戦をともにし、史上初めて7つのGⅠ勝利を達成したシンボリルドルフなど、この組み合わせの「騎手」と「馬」は切っても切れない関係にあった。

 頻繁に騎手の変更が行われようになった現在、ラッキーライラックのような存在は不思議ではなくなった。ただ古いタイプの競馬記者である筆者は、騎手がたびたび変更されることには違和感を感じている。

 そういう意味で、1戦を除いてルメール騎手とのコンビを貫いたアーモンドアイや、コントレイルと福永祐一騎手、デアリングタクトと松山弘平騎手と現代のスターホースはしっかりとした相棒を持っているのは歓迎すべきことだ。

 次号では上記3頭が直接対決した第40回ジャパンカップについて考察したいと思う。

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