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第128回「4代」

2021.11.12
 10月3日に中山競馬場で行われた第55回スプリンターズSは単勝3番人気のピクシーナイト(牡3歳、栗東・音無秀孝厩舎)が優勝し、JRA史上初の記録を達成した。
 その記録とは父・息子4代にわたるGⅠ制覇である。

 ピクシーナイトの父系をさかのぼると次のようになる。モーリス→スクリーンヒーロー→グラスワンダー(USA)だ。いずれも名競走馬として活躍した。モーリスは国内外で計6つのGⅠレースを制した。香港で3勝。JRAでは2015年の安田記念とマイルチャンピオンシップ、2016年の天皇賞・秋と計3勝を挙げた。モーリスの父スクリーンヒーローは2008年のジャパンカップでディープスカイ、ウオッカ、メイショウサムソンという3頭のダービー馬などを破り、自身唯一のGⅠ勝利を飾った。

 スクリーンヒーローの父グラスワンダーは米国生まれの外国産馬。1997年の朝日杯3歳S(現朝日杯フューチュリティS)をはじめ1998、1999年と有馬記念2連覇を果たし、1999年には宝塚記念も制した。GⅠは計4勝した。

 「親子4代GⅠ(級)制覇」ということなら、これまでにも記録は達成されていた。3例が知られている。一つ目は☆アグネスレディー→☆アグネスフローラ→アグネスタキオン→ロジック、☆ダイワスカーレット、キャプテントゥーレ、ディープスカイ、☆リトルアマポーラ、☆レーヴディソールという系統。二つ目は☆ダイナカール→☆エアグルーヴ→☆アドマイヤグルーヴ→ドゥラメンテの流れ。そして三つ目がスペシャルウィーク→☆シーザリオ→エピファネイア→☆デアリングタクト、エフフォーリアの例だ。ご覧になって、おわかりのように3例とも、エアグルーヴやシーザリオ、アグネスフローラなど連続する4代の中に牝馬(☆マーク)が顔を見せる。

 年に1頭しか子どもを産まない牝馬がGⅠタイトルの継承者になることの確率はとても低いはずだが、これまではそうした例しかなく、ピクシーナイトによって初めて父系4代連続のGⅠ勝利という快挙が達成された。

 ただ長く競馬を見ていると、父系の継承の難しさはよくわかる。駆け出し競馬記者の頃は種牡馬テスコボーイ(GB)の晩年だった。1963年、英国で生まれたテスコボーイは3歳時に11戦5勝の成績を残した。1968年から日本で種付けを開始。初年度産駒のランドプリンスが1972年の皐月賞優勝に輝くと、その後もキタノカチドキ、テスコガビー、トウショウボーイなど次々と名馬を送り出した。中央競馬で5度のリーディングサイアーに輝いた。そんなテスコボーイだったが、現代まで生き延びている父系はテスコボーイ→サクラユタカオー→サクラバクシンオー→ショウナンカンプ、グランプリボスの系統ぐらいで、期待されたトウショウボーイの系統はほぼ途切れた。

 ノーザンテースト(CAN)はテスコボーイの上をいく種牡馬成績を残した。1982年から11年連続でJRAのリーディングサイアーに君臨した。しかしノーザンテーストの父系も長く生き延びることはできなかった。辛うじてつながったのはノーザンテースト→アンバーシャダイ→メジロライアン→メジロブライトだったが、その先は途絶えた。

 そして現れた真打ちがサンデーサイレンス(USA)である。1995年から13年連続リーディングサイアーになり、JRAでの産駒の通算勝ち星は2,749勝。クラシック全勝、GⅠ71勝の金字塔を打ち立てた。

 サンデーサイレンスの後継種牡馬は数多い。代表格はディープインパクトだろう。キズナという後継馬が現れた。キズナ産駒のディープボンドは凱旋門賞で惨敗したものの、前哨戦のフォワ賞で逃げ切り勝ちを収め、ディープインパクト、キズナに次いで父子3代にわたる凱旋門賞出走をかなえた。今年、初年度産駒がデビューし、次々と勝ち馬を出しているシルバーステートも有望なディープインパクトの後継種牡馬だ。

 サンデーサイレンス系は、ほかにもステイゴールドから子どものゴールドシップ、オルフェーヴルへとつながる系統が順調に枝葉を伸ばし、種牡馬としての地位を築き上げている。

 サンデーサイレンス系が日本の中心であることは疑いの余地はない。しかしテスコボーイやノーザンテーストの経緯を見ていると、決して楽観はできないと思う。

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