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第131回 『馬の鬣』

2019.11.20
こんな卑劣なことをする奴は、競馬ファンだと名乗って欲しくない。
 事の発端は、ヴェルサイユファーム㈱で功労馬として繋養されていた、タイキシャトル(USA)とローズキングダムの鬣が、何者かによって切り取られたことだった。その後も㈲日西牧場ではビワハヤヒデが、AERUでもウイニングチケットが同様の被害に遭っていたことが判明した。

 ヴェルサイユファーム㈱とAERUでは、この後に当面の見学中止を発表。㈲日西牧場では年齢面も考慮する形で、今後は一切の見学を中止することになった。

 個人的に馬産地観光に最も適した季節は、秋だと思っている。種牡馬や繁殖牝馬たちは、次のシーズンに向けての身体作りをはじめ、牧場の方々も定期市場こそあれど、牧草作業も一段落し、仕事的にも見学対応の時間が取りやすい時期。9月、10月は連休も多く、そこに合わせて飛行機の早割チケットを取っていた競馬ファンもいるに違いない。

 しかし、この事件は牧場の方と競馬ファン、そして馬との信頼関係を傷つけることになった。事件以降、充分な防犯対策ができていないとの理由で、同じように見学を中止せざるを得ないことになった牧場もあるだけでなく、見学に来たファンもまた、近くにいる人が良からぬことを考えているのでは...と疑心を抱いてしまうに違いない。それでもこの事件には不可解な点がある。まず思うのが、なぜこんなことをしたのか?ということだ。

 報道によると、切り取られた鬣がインターネットの購買サイトに出ていたとも言われている。しかしながら、時期的にずれが生じている出品物があることや、何よりもその鬣自身がDNA鑑定でもしなければ、本物か分からないという点においても、そのために切り取るのは愚策と言える。

 嫌がらせで切り取ったとの可能性もあるが、被害に遭ったのが特定の牧場だけでなく、犯行が門別から浦河まで行われていることからしても、計画性があるようで実は全く無い可能性が高い。

 ただ、3つの牧場に共通しているのが、ファンにいつ来てもらってもいいように、見学時間が長い、あるいは見学時間にスタッフが常駐していないことだ。

 これは見学に来たファンを信じているからこその善意であり、また、見学時間はずっと、その場所に牧場スタッフを張り付けておくわけにも行かないだろう。事件の後、ヴェルサイユファーム㈱では防犯面を考慮して、365日、24時間稼働できる監視カメラを備えたという。せっかくの牧場側の善意が伝わらずに経費をかけさせしまう結果となったのは、何とも言えずに悲しくなってくる。

 見学時間を定めず、もしくは見回りのスタッフを配置していない同様の見学を行っている牧場でも、被害に遭った可能性がある今回の事件だが、不可解な点のもう一つが、いくら誰も見ていない時間に犯行が行われたとはいえども、馬の鬣をあれほどバッサリと切り取れるのか?ということにある。

 普段から馬の手入れをしているホースマンの方ならお分かりかと思うが、鬣にブラシを入れる場合、馬の顔の斜め後ろに行く必要がある。切り取られた鬣の場所からしても、犯行もその位置まで移動したと考えられる。しかしながら、いくら自由に見学ができるとはいえ、見学は牧柵越しに行われているはず。つまり犯人は鬣が切り取りやすい位置まで馬を呼び寄せた(あるいは来るのを待った)か、もしくは放牧地の中に入って犯行に及んだという可能性すらもある。

 いくら功労馬といえども、元は競走馬、そして種牡馬でもあり、人に対して威嚇や攻撃のような行動をする可能性は有る。それを承知で、あるいは何も考えずに馬の側に近づいていったとするのなら、それもまた愚策であろう。

 そんなことを話していると、ふるさと案内所の女性スタッフから、「二人で犯行に及んだという可能性はありませんか?」と言われてハッとした。確かに一人が牧柵越しに馬を呼び寄せて、顔の前で馬を固定。もう一人が犯行に及んだとなれば、容易に鬣は切り取れるような気もしてくる。もし、二人とも放牧地に入ったとしても、同様に前で馬を固定できたとすれば、それほどの危険もなく、鬣を切り取れるような気がしてくる。

 この事件は、ひょっとしたら「愉快犯」のようなものなのでは?という気がしてくる。

 となれば、こうして我々が騒いでいることが、犯人にとっては最も好ましい状況でもあるはず。いずれにせよ、次に被害に遭った馬が出てこないことと、早急に犯人が逮捕されることを心から願う。

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