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第136回 『ブエノスアイレス午後1時 PARTⅣ』

2020.04.17
 アルゼンチンを世界的な農業大国にした、肥沃な大地であるパンパ。その大地からのエネルギーが馬の膝丈ほどはあろうかという長さの、牧草の全てに詰まっている。

 アルゼンチンを代表する名種牡馬オーペンを繋養するHaras Carampangue。牧場の代表を務めるIgnacio Pavlovsky氏は、伸びっぱなしにも思えてくる牧草が生い茂った放牧地を、誇らしげに見渡すと、「この土地はグレードだよ」と呆気にとられている自分と、Hディレクターに話しかけてくる。

 一見、全く手入れがされていないようにも見える放牧地であるが、よく見ると背の高い牧草の間を埋めるかのように、アルファルファが生えていた。Hディレクターが、「これはアルファルファですか?」と英語で尋ねると、Pavlovsky氏は良く気付いたな、といった笑顔を浮かべ、「主立った栄養は牧草でまかなえるけど、その他の足りない部分を補うために、アルファルファを植えているんだ」と話してくれた。しかも驚かされたのが、イネ科の牧草は元から自生していて、日本で言うところの雑草であること。それにもかかわらず、月齢で12~14ヵ月ほど経過したと思われる1歳馬たちは、血統構成こそあるとはいえども、その年齢とは思えない程に逞しい。

 その逞しさの源となっているのは昼夜放牧による、充分過ぎるほどの運動量とも言えるのだろうが、それでもほぼ管理がされていない放牧地と運動だけで、これほどまでの馬が出来上がるのは驚きしかなかった。

 このロケではHaras Carampangueの他にも、Haras Vacacionなど、幾つかのオーナーブリーダーを訪ねた。どの牧場も総じて広大な敷地を有していただけでなく、放牧地の草は伸びっぱなし(掃除刈りがされている放牧地も幾つかは見られましたが...)かつ、「ここは土壌がいいんだ」という関係者の声が聞かれた。

 ただ、管理に関しては日本ほど緻密では無いように見受けられた。各牧場には獣医師の姿もあったが、事故や怪我を予防できるレベルには達していないようにも思われ、生産馬たちや繁殖牝馬のロスも、それなりの数は出てくることも容易に想像できた。

 だからこそ、ある意味では恵まれ、ある意味では過酷でもあるこの環境で育ったアルゼンチンの馬たちは外見だけでなく、内面も強く育っていくのかもしれない。

 色々なことを見聞きしていくうちに、次々と質問が沸き上がってきた。向こうが話す英語も、単語単位なら理解はできる。しかしながら、返す言葉が即座に出てこない。さすがにその時はへこんだ。ロケとはいえども、地球の裏側まで連れてきてもらって、様々な貴重な経験をさせてもらっているにもかかわらず、コミュニケーションが取れないばかりに、出役としての仕事が果たせていないことを心から恥じた。

 頼みのGoogle翻訳も、Wi-Fiが上手くつながらないために使い物にならない。単語すら上手く聞き取れないスペイン語で話しかけられた時には、もはや諦めるしか無かった。

 アルゼンチンの馬産についてまだ詳しく聞くだけでなく、日本の馬産についてもまだ語りたかった。でも、伝えるべき言葉が出てこない。忸怩たる思いばかりが身体を駆け巡っていたとき、ガウチョスタイルの牧場スタッフから、ある言葉をかけられた。

 「お前はサトノダイヤモンドを知っているのか!それは凄い!あのお母さんはアルゼンチン産まれだけど、日本でディープインパクトを付けたから活躍することができたんだ」。正確な言葉がこうだったかは分からない。ただ、英語だけでなく、スペイン語も多少ならば理解できていたHディレクターが話していたので、多分、間違いはないだろう。

 海外渡航歴がほとんど無いどころか、アルゼンチン競馬の知識も乏しかった自分は、このロケには相応しく無かったのかもしれない。

 しかしながら、見るもの全てが新鮮であり、また違った馬の世界を目の当たりにできたのは、この上なく幸せだっただけでなく、サトノダイヤモンドについて話しかけてきた牧場スタッフのように、馬の存在はホースマンにとって、万国共通であることを実感できた。

 アルゼンチンの最終日、エセイサ国際空港へ向かうレンタカーの車内の中でも、忸怩たる思いはまだ消えなかった。でも、カメラ越しのパンパや馬の姿、そして自分のたどたどしい言葉は、きっと運転をするHディレクターが上手くまとめてくれるだろう。

 滞在期間は気温の変化が激しかっただけでなく、時にはスコールのような雨に打たれる時さえあったが、この日は抜けるような青空が広がっていた。

 ブエノスアイレスは日差しがさらに激しくなる

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