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北海道馬産地ファイターズ

村本浩平 北海道馬産地ファイターズ

第142回 『ゾース、馬ソリを引く』PART Ⅱ

 ゾース(シマウマと馬を異種交配された雑種馬)を乗馬にするために、シマウマの牡馬を購入した、新冠町内で生産牧場を営む田村義徳さん。繋養していたアパルーサとハフリンガーの牝馬に配合を試みると、牡、牝の双方で見事な縞模様が出たゾースが誕生した。
 

 しかしながら、知人からの誘いを受けて、その2頭のゾースは草ばんば大会へと出走。その噂を聞きつけて、会場であるむかわ町穂別へとやってきた筆者、というのが前回のあらすじである。

 先にレースへと出走したのは牡馬のしまじろう。ばんば用の馬具を付けるのに抵抗があるかと思いきや、そこは生産だけでなく、競走馬の育成も手がける田村さんの馴致もあってか難なくクリアしていた。

 このレースはしまじろうのような、体高がそれほど高くない馬たちによる、4頭立てのレースとなった。ゾースの仔が草ばんばで勝利という報道を、世界に発信できるのではとの期待も一気に膨らんだのだが、ゲートに入ってから落ち着きを無くしたしまじろうは、スタートで出遅れてしまい、最後方からのレースを余儀なくされる。

 しかしながら、第1障害を降りた勢いのままに前の馬を交わしていき3番手に進出。DNAにすり込まれた、サバンナを駆け巡っていたような軽やかな走りで、一気に前の馬も抜き去っていくのかと思いきや、騎手の田村さんが一生懸命に馬を促しても、思うように前に進んでいかない。

 DNAには肉食獣の襲撃から生き抜くための「逃走心」はあれど、競馬向きと言える「闘争心」は無いのかと思いきや、第2障害で抜き去った4番手の馬が迫ってくると、「逃走心」に火が付いたのか一気にスピードアップ。さすがに前を行く2頭は交わせなかったものの、3位入着を果たして見せた。

 そのレースを見守っていたのが、Tさんと同じく牧場スタッフのTTさん。後続馬に迫られてからの最後の一伸びには驚いたようで、「後ろから牧羊犬にでも追いかけさせたら、もっといい末脚を使っていたかもしれません」とさすが、幾多のレースを見続けてきたというべき、評論家目線での解説をしてくる。

 この後、もう1頭のゾースであるしまみちゃんも4頭立てのレースに出走。先ほどのレースを見た運営サイドの温情もあったのか、他の馬が10㎏、あるいは20㎏の重りをソリの上に載せたにもかかわらず、「ゾースハンデ」が適用された、しまみちゃんの斤量はなんと0㎏となった。先ほどのしまじろうのレースを見ていても、スタートダッシュさえ決めれば、この軽量と逃走心を生かしての逃げ切りも期待できるはず。ゴール前でカメラを構えてその瞬間を待っていたものの、やはり、ゲートからのスタートに難があったのか、スピードに乗り切れずに最下位に沈んだ。

 それでも、2頭の騎手を務めた田村さんは終始笑顔であり、近郊からもこの大会を見に来た草ばんばのファンや、運営を一手引き受けていた牧場の場長といった係者の皆さんも一応に、ゾースの草ばんば初出走を好意的に受け止めていた。

 その光景を見た時に時に改めて思ったのが、草ばんば大会を一部の愛好家だけのものとするのは、非常に勿体ないとの気持ちだった。草ばんばならではのスピード感や、ポニーのような小型馬が重いソリを引いて障害を上っていくというギャップは、ばんえいファンだけで無く、競馬ファンもあっと言わせられるはず。できることなら競馬場や乗馬施設でも草ばんばができたら...と考えてしまうが、コースの設置だけでなく、防疫的観点からしても難しいのかもしれない。

 また、ばんばである以上、どうしてもソリの上から人がポニーにムチを振るう必要がある。それは人馬一体となって障害を登り、ゴールを目指していく真の姿でもあるのだが、傍目から見ると小さな馬に対して、人が虐待しているようにも見えなくは無い。

 ただ、ゾースという見た目にもインパクトがある馬が、ソリを引く姿が見られるのは、間違い無く草ばんばだけでもあり、扱いに難しいとされるシマウマの血が入った、ゾースに適したレースもまた、ソリで動きを制御する草ばんばはベストなのではとも思える。

 今年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、草ばんばの大会も減っている。その後もしまじろうとしまみちゃんは、田村さんの牧場でトレーニングが行われながら、数少ない大会に出場しているというが、まだ勝利の報告は聞かれていない。

 だがいつか、世界初となる「ゾース、草ばんば大会初勝利」の知らせが届いてくるだけでなく、そのニュースを通して、まだ草ばんば自体が広く知られていくことを、切に願わずにはいられない。