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第152回 『馬に乗らないホースマン PARTⅡ』

2021.08.18
 馬に乗れなくとも、ホースマンとしての仕事は色々とある。それは繁殖スタッフとしての仕事は勿論のこと、近年では中期育成(イヤリング)における管理も重要視されている。
 また、ホースマンとしての経験を生かした上での事務職や営業職は、調教師や馬主とのコミュニケーションを取るに当たり、欠かせない人材ともなっていく。勿論、興味があるのならば、自分の様なライターや、カメラマンを目指してもいい。

 BTCの教務課の方に、「馬の仕事は色々とあるのに、辞めるのはもったいないですね」と話すと、「ゆくゆくは馬に乗れなくとも、ホースマンとしての様々な仕事が学べる人材も育ててみたいという思いはあります」との言葉が返ってきた。

 これまで様々な牧場へ取材に行かせてもらったが、その中には馬の扱いに卓越したホースマンもいる。

 例えば、2歳馬やせりカタログに掲載する上場馬の立ち写真。このコラムでも幾度となく取り上げた話でもあるのだが、ハンドラーの指示がとても重要になってくる。

 相性もあるのだろうが、時にはハンドラーの指示をなかなか受け入れようとしない馬もいる。ただその時、場長や厩舎長といったエースハンドラーに持ち手が変わると、先ほどまでうるさかった馬も、大人しくポーズを決めていくのだ。

 その時、ハンドラーを変わった場長は、こんなことを話してくれた。

 「自分がやれば撮影も早いのは分かっていましたが、教えていてもセンスのある子だけに、何とか一人でやってくれるのではと思っていました。ただ、本人も何が問題かを理解しているはずですし、次に撮影に来てもらった際には、全ての馬を彼が担当しているかもしれませんよ」

 近年ではオーナーから預かっている馬のレポートを送る際、写真を添えることも当たり前になってきた。その際に優れたハンドラーがいれば、写真撮影の時間も短くなるし、何ならば、カメラに詳しいスタッフがいれば、経費削減にも繋がっていく。

 勿論、文章を書くことが好きなスタッフがいれば、レポートの内容を任せてもいいし、動画撮影に長けているスタッフがいれば、動画の配信だけでなく、牧場のYouTubeを作ることだってできる。馬に乗れなくとも、ホースマンの仕事をベースにすることによって、ここまで牧場の仕事にメリットを与えることができるのだ。

 もし今後、BTCが育成調教技術者以外の研修を行う際には、馬に関する様々な仕事や、技術に関しての選択肢も設けて欲しい。例えば、優れたハンドラーを講師に招いて講習を行うのはありだと思うし、カメラマンを招いて、立ち写真について撮る側と撮られる側の両方を学ばせるのもいいかもしれない。

 自分も牧場の仕事を辞めた人間にもかかわらず、こうしてライターの仕事をしている。ホースマンとしての経験はほんのわずかでも、馬と接してきた経験が、その後の取材に生かされてきたのは間違いない。

 BTCの方針や、そこで行われるカリキュラムは、優れたホースマンを作っていくのに当たり非常に有益かつ有効だと感じている。北海道、そして馬産地日高で生活する際に環境に慣れるという意味でも、BTCの1年間の研修は、いい準備期間ともなっていくはずだ。

 前回のコラムで入講時における年齢制限が撤廃されたと書いたが、馬に関する仕事を何でも学べるとそこに書き添えたなら、研修希望者の数はまだまだ増えるかもしれない。

 ただ、あまりにもその人数が増えてしまうと、本来の、「騎乗による基礎調教の技術を身につける」という目的から逸脱してしまうだけでなく、それに伴う教官を増やしたり、カリキュラムも改めて作らなければいけなくなってくるとなると、それはそれで大変である。

 しかも、どの育成牧場でも騎乗スタッフ不足は深刻な問題となっている。それが外国人従業員の雇用増に繋がっていることを考えると、各牧場で即戦力となり得る研修生を、一人でも多く送り出すべきなのだろう。

 まずは今年度、研修を受けている生徒の全員が無事に卒業できることを祈らずにいられない。そしてもし、挫折しそうになった時には、それでも馬の仕事は他にもあるよ、と背中を押してあげたい。

 これまでの研修で身に付けたホースマンとしての経験はわずかだとしても、それを生かして馬に関わる仕事を見つけてもらえたらいいなと思う。研修生となった時点で、ホースマンとしての道は始まっているのだから。

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