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プロフィール
諸江幸祐さん

1955年7月18日生まれ
石川県金沢市出身
カタマチボタン(07年クイーンC2着、桜花賞3着)
ツーデイズノーチス(09年アネモネS優勝)

主な活躍馬

1979年慶応義塾大学経済学部卒業
1985年南カリフォルニア大学大学院MBA修了
1985年野村證券海外投資顧問室にアナリストとして入社
1988年ゴールドマン・サックスに入社
2008年同社を退社、株式会社YUMEキャピタルを設立。現在に至る
2003年JRA馬主資格取得

記念すべき第1回目のインタビューは、07年の桜花賞3着馬、カタマチボタンのオーナーでも知られる諸江幸祐さん。まずは競馬の入口から尋ねてみた。

「学生時代は競馬をほとんどやってません。覚えているのはテンポイントだけ。でも15年ぐらい前ですかね、仕事にちょっと疲れてて(笑)。週末っていうとゴルフだったんですよ。で、今でも覚えてるんですけど、ゴルフ場に向かうレインボーブリッジの上で、カーラジオから流れてきた『明日は皐月賞ですね』の声。『今サンデーサイレンスの子が活躍してます』と言って紹介した中にいい響きの名前の馬がいたんですよ。じゃ馬券でも買いに行ってみようかなと思って、翌日渋谷の場外に。もちろん場所を知らないから人の流れを追ってあの辺かなと(笑)。買い方もわからず、でも負けるのは嫌だから人気の馬から入って、イシノサンデーとロイヤルタッチで元返し。それが競馬の始めですね。」

それからも馬券を買い続けたのには、競馬のある側面に気付いたから。

「競馬が面白いなと思ったのは、仕事は一生懸命頑張ってても成果を得るまでが長くてつまらないけど、競馬だったらダメでも30分で次に切り替わるじゃないですか。それが自分にとってのリフレッシュというか、ストレス解消というか。頭の中を無にして、仕事が全部抜けるってすごいなって思ったんですね。そうなると、もう完全に“サザエさん症候群”(笑)。金曜日の夕方からはスイッチが完全に競馬に切り替わり、日曜日の最終レースが終わると虚脱感。1週後が待ち遠しくて…(笑)。とにかく週末は競馬場かグリーンチャンネルの前でガッツリ競馬をやってましたから。」

収支のほどは?さぞかし儲ったのでは?

「職業柄、ボクはアナリストですから、データは徹底的に分析する。競馬新聞というのがすごく面白くて。あれってデータの宝庫じゃないですか。距離、馬場、それに血統等々…。ところがこれが当たらない(笑)。というか、中央競馬の場合、(控除率を引いた)75%までしかホントいかないんです。それこそかなり買ってた頃はかなり負けましたよ。なんだかつまんないなと思ったところに救世主のように現れたのが、薗部博之さんの“ダービースタリオン”!息子のプレステでやり始めたら、競馬の仕組みがわかってきた。なるほどこういうことなのかと。じゃ育成や調教とかがわかればもう少し当たるのかなと再度競馬に気持ちが向いたのと同時に、『ちょっと待てよ、これだけ馬券にお金を使ってるなら、馬が買えちゃうんじゃないの』と。それで馬主になっちゃいました(笑)。」

競馬の入口として、ウインズに足を運ばせたきっかけも馬の名前だったが、諸江さんにとって馬のネーミングがひとつのキーポイントになっているよう。

「間違いなくそうだと思います。初めての馬の名前がノットユアビジネスなんですけど、これは“余計なお世話”という意味。馬主始めたなんて言ったら、どうせ周りの評価は、『そんなバカなこと始めて…』って言われるのわかってたから。だから“余計なお世話”だと。“not your business,it’s my business!”と。最初は絶対これにしてやろうと決めてたんです(笑)。」

そのネーミングのセンスがカタマチボタンへと繋がっていく。

「ボクは出身が金沢で、片町という街に祖母がやっていた喫茶店がありまして。
古くなったとか、高齢になったとか、いろんな事情で店を辞めることになったんです。
現在も祖母は96歳で元気なんですよ。でも92歳まで頑張ったその店の名前や、彼女にちなんだものを残してあげたいというのがありまして。
片町の“ぼたん”という喫茶店で『カタマチボタン』。そしたらそのコがクラシックロードに乗ってくれて、桜花賞を走ってくれた。レースの日には92歳の祖母も連れて、一家揃って京都で花見をし、阪神で競馬を見て、神戸でステーキを食べて宴会をして(笑)。祖母がものすごく喜んでくれましてね。今年初仔(父フレンチデピュティ)が生まれたんですが、これもまた金沢にちなんだ名前にしたいなと思って祖母と名前を決めました。金沢弁で“ありがとう”を“あんやと”って言うんですが、その『アンヤト』という名前で登録する予定です。もう祖母もアンヤトちゃん、アンヤトちゃんって楽しみにしちゃって(笑)。」

実はカタマチボタンの出走した桜花賞の1着ダイワスカーレット、2着ウオッカはもちろん、4着だったローブデコルテもGIを制している。他にもアストンマーチャン(7着)、カノヤザクラ(9着)、ピンクカメオ(14着)も後のGIを勝っており、レベルの高い桜花賞で3着だったカタマチボタンに残された仕事は、産駒によるGI制覇だろう。

「カタマチボタンの名前を牡馬に付けなかったのは、“残す”というのが重要なポイントだったから。サラブレッドの世界で“残す”となると牝馬である意味は大きいですね。」

ロマンだけでは馬は走らないかもしれない。でも走らせる人間の思いが後押しをすることがきっとあると思う。

「本当にそう思います。馬券から入ったけれど、心底、馬が好きになってしまってわかるのは、彼らもよーく人を見てるってことなんですよ。よくわかってますって。例えば、馬主のエゴで何とかこのレースを走らせたいと、でも馬がその状態になかったとしたら、馬主にフラストレーションが溜まろうとも、彼らの気持ちをわかってやることが大切なんだと思うんです。もし自分がジョギングしてて膝が痛いなって感じたら無理は絶対できないでしょ?必要なのは安静なんですから。それを待てるかどうか。自分のエゴで動かしちゃいけないんだって常々思います。」

その姿勢が結実した出来事があった。去る7月4日のこと。

「福島の3歳未勝利でユメノキズナが、函館の500万でユメノキラメキが、共に休み明けで勝ってくれたんです。キズナは骨折で昨年11月以来の競馬、キラメキも4ケ月半振りでしたからね。馬主になって初めての1日2勝。でもこの3ケ月、やれ骨折だ、やれ鼻出血だで4歳馬が3頭も戦線離脱。うわーっと思ってる時に休んでた馬が戻ってきてくれて埋め合わせをしてくれる。勉強させられますョ。」

このように馬が教えてくれたことは多いという。

「気長になりましたね(笑)。このコがダメでも子供がやってくれるだろうという考えができるようになりました。30分で結果が出るってところから始めたんだから、それはそれは気が長くなりましたよ(笑)。今はずっと競馬を続けられるように頑張らなくちゃと、働き甲斐にもなってますね。」

諸江さんといえば、セリの相馬眼にも定評がある。セリの形になってからのブリーズアップセールで購入した3頭がすべて勝ち上がり、なかでもツーデイズノーチス(牝・420万円)はアネモネSを勝ち、オークスにも駒を進めている。

「ボクらは弱小馬主なんで(笑)、そう高い馬は買えないっていうのがありますよね。そんな中ではしっかりした馬が好き。しっかりしたっていうのはね、骨量がちゃんとあるっていうのかな。あとは全体の雰囲気。バランスとか、歩き方に雰囲気がある馬を求めます。セリ前は牧場に行きますよ。セレクトセールが主なので、セリ前に少なくても2度は足を運んで当たりを付けますけど、その馬は買いません。というか、高くなっちゃって買えません(笑)。だから最近は二の手、三の手を用意しておくんです。ブリーズアップに関しては、早い時計を出した馬は買いません。絶対高くなるんで。それより最後の2Fの走り方に注目する。脚が回って、砂が上がって、きっちり走ってきて、平均の時計を出してくる馬を狙うんです。で、種牡馬も超一流と言われるのはそこでは買わない。むしろそこのセリで特徴のある種牡馬の仔でいい馬を探しますね。日高の牧場さんに自分で行っていい馬を出してもらえるほどの馬主じゃないって思ってるから、JRAが選んでくれて、JRAが育成してくれた中から選ぶ。日高の馬はブリーズアップセールで買うことを今のところは第一義にしてますね。」

そうして見つけた馬たちに、当然大きな期待もかけるはず。馬主としての将来の夢は?

「周りの仲間が重賞どころかGI獲っちゃってて(笑)。ボクはまだ重賞を勝ててないんですよ…。いずれ大きいのを勝って、引退時にJRAがニュースにしてくれるような馬を持ちたいですね。」

最後に先輩馬主から馬主を夢見るみなさんにメッセージを。

「馬主になると、楽しいことがいっぱいあると思うんです。自分の勝負服で走るとか、自分の名前で走るとか。もちろん楽しいことばかりじゃないですよ、プロセスにおいてイジイジする局面ってかなり多いんです、馬って(笑)。でもそれは精神修養の場。あともうひとつ、大人があんなに大声張り上げることって滅多に無いですから。あの瞬間のために馬主やってるって言ってもいいんじゃないかな。馬券とは比べ物にならないですって、ホント。他にも、今までと全然違うジャンルのみなさんとのお付き合いが広がるというのも魅力。自分の活動範囲を広げていくっていう意味でも価値のあることだと思います。」

さらにアドバイスをひとつ。

「馬主になったら、生産牧場さんと共有することをお勧めします。というのも、オーナーブリーダーというのは、その血統を100%手放したいとは絶対に思っていないんですよ。馬主になったら頭数を持つといい。1頭じゃ当たらないから(笑)。そのための共有なんです。当たれば楽しくなるし、ボクも先輩馬主さんに言われました。『せっかくなった馬主だもの。楽しくなる前に辞めないで』ってね(笑)。」

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