第11回 山口 功一郎さん
1980年8月31日生まれ
福岡県北九州市出身
2003年東京大学経済学部卒業
2003年外資系証券入社
2006年外資系運用会社入社
2009年暁翔キャピタル株式会社設立
2012年JRA、NAR馬主資格取得
小倉競馬場のすぐ近くで育ったという山口功一郎さん。幼い頃から、競馬はごく身近な存在だったよう。
「幼稚園の遠足が競馬場という環境でしたから(笑)。
一番鮮明にあるのは、中学時代。陸上部だったんですけど、クロスカントリーで小倉競馬場のダートコースを走ったんですよ。ところが、これがメチャメチャ重くて(笑)。
あと、父が税理士試験を受けるために浪人していて、小倉開催の土日だけ、競馬場の門番のアルバイトをしていたんです。母親と買い物に出ると、“おとうさ~ん”と手を振る。父親もそんなに競馬はやらなかったんですが、たまに一緒にレースを見に行ったりしてましたね」
本格的に競馬を始めたのは、大学生の頃。
「最初はテイエムオペラオーの時代ですかね。
大学を卒業して、社会人1年生になってから、一口馬主を始めまして。
最初に持ったのが、キャロットクラブのカルナバリート。エルコンドルパサー産駒で、オープンまでいきました。
黒鹿毛で、ダートの短距離馬だから、馬体もゴツい。素人目にも良さそうに見えて、値段も手頃だったので出資しました」
実は、中央の馬主資格を取った今も、一口馬主を続けている。
「400分の1とか500分の1なら、普段買えないような血統馬をたくさん買えちゃうので。気軽な楽しみとして続けています」
個人馬主になったきっかけは?
「同じ金融系の仕事をしている馬主さんから飲み会に誘われて。それまではクラブ会員だったので、個人馬主なんて縁遠い存在だったんですけど、自分の周りの金融系サラリーマンの方でも馬主になってる人が結構いるんだと知り、そこで一気に現実感を持った夢に変わりましたね」
個人馬主になって初めて馬を購入したのは、ブリーズアップセール。
「馬主の先輩たちが小島茂之先生に預けていたので、お願いしようと思ったら、さすがに枠がもういっぱいだと。
じゃ、どなたか若くて見どころのありそうな調教師さんを紹介してくれませんかとお願いしたところ、栗田徹先生を紹介して頂きました。
一口はやっていたけど、歩いてる馬を自分で選んだことはなく、栗田先生にほぼお任せみたいな話で、とりあえず1頭。父アルデバランⅡ。
“アルデバランⅡ?”正直、よくわかってなかったんですけどね(笑)」
その馬の名は、レイアロハ。当初はハワイ系の名前が多かった。
「でも、これは金子真人さんとカブるぞと。ここは身を引くべきだろうと(笑)。
今は、ボクだったり、妻だったり、子供だったり。みんなで好きに名前を付けてますね。家族の理解は大事。お金を使う趣味ですから」
息子さんが“ちびっ子競馬博士”だそう。
「今6歳で、まだ小学校に上がってないんですが、4歳ぐらいの時に、ひらがなより先にカタカナを覚えて(笑)。その後、ひらがなとほぼ同時に、騎手の名前の漢字を覚えました。上位50名ぐらいの騎手だったら、漢字を見てわかりますョ。
普通に子供らしく、ドラゴンボールも好きなんですけど、GⅠの時は◎や○を打って、予想を付けてますから(笑)」
競馬はブラッドスポーツ。良血継承の予感?
山口さんはセレクトセールだけでなく、日高の牧場からも馬を購入するなど、バランスのいい馬選びのイメージがある。
「ボクは血統から入ります。最低でも兄弟姉妹が半分以上、中央で勝ち上がってるような中から選ぶ。そこから調教師さんに馬体や動きで選別してもらうようにしています」
2017年は、フランスのドーヴィルでのセリにも初参加。
「本当は7月のセレクトセール(2頭購入)で、もう少し買おうと思ってたんですけど、買えなかった。で、ヨーロッパのセリに行った方に聞いたら、ドーヴィルは雰囲気もいいし、夏休みの旅行としてもいいんじゃないかと。実際行ってみたら、すごくいいところで。
フランケルか、キングマンの牝馬を買いたいと、10数頭選んで臨み、セリに挑んだんですけど、ヨーロッパは繁殖としての価値が残る牝馬のほうが、値段が高いんですね。
初日に狙っていた馬を、50~60万ユーロまで頑張ったんだけど、シェイク・モハメド殿下に負けてしまいました(笑)。
2日目、もう1回作戦を立て直して、何頭か候補を追加。急いで馬を見て、レポジトリーを取ってとドタバタの中で、ドバウィの牡駒を1頭、40万ユーロ(日本円で約5400万円)で購入しました。
2018年は今回の経験を活かして、準備をさらにしっかりして臨みたいと思ってます」
実は、地元フランスの新聞にも“日本の新進気鋭の若き馬主がドバウィ産駒を購入”と記事になった。
そんな山口さんの期待の現役馬がこちら。
「まずは2歳(明け3歳)のカーボナードですかね。個人では、初めて持ったディープインパクト産駒。重賞のサウジアラビアRC3着に頑張ってくれました。
上も下屋敷牧場のダイワメジャー産駒で、セレクトセールで落とし、アーマンディと名付けたんですが、こちらは勝ち上がれなかった。でも、母ディアマンティナは兄弟が堅実に走っている、ボクの好きなタイプの血統。そこにディープをつけた子はすごく買いたかったので、牧場に言ったら是非と」
今はケガで休養中だが、サウジアラビアRCの1、2着馬が、後のGⅠ朝日杯FSの1、2着。この3着には価値がある。
その他にも楽しみな馬がいっぱい。
「ヒストリア(明け4歳)は、惜しいところでクラシックに出走出来なかったけれど、ようやく3歳の秋から本格化。500万、1000万特別(TVK賞)と連勝してくれました。父ハーツクライの成長力に期待したいです。
また、一口時代に出資したリアルインパクト、レアリスタの母、トキオリアリティーのラストクロップをセレクトセールで落としまして。デルニエリアリテという名前で8月の新潟でデビュー。あのラッキーライラック(後の阪神JF優勝馬)を押さえて、1番人気に推されたんですョ。結果は離された3着でしたけど(笑)。
重賞馬を何頭出してるんだというすごい繁殖牝馬。ても高齢もあってか、長浜牧場に移った。ゼンノロブロイ産駒の牝馬ということで、少し地味な感じになって、ボクでもチャンスがある値段で買えたってところですかね」
さらに、地方の園田競馬にも、山口さんの思い入れの強い馬がいる。
「セレクトセールの当歳セリで買った馬なんですけど、産駒のほとんどが勝ち上がっているサンフラワーガールの子。父ディープブリランテで、期待して買ったのですが、1歳で調教を始めたら種子骨が弱いと。馬体も600キロぐらいあって、2歳の秋ぐらいまで待ったんですが、育成場からも、中央の調教師さんからも、これはちょっと厳しいんじゃないかと。
で、中央登録はしたけど、抹消したんですね。
いつも園田は新子先生に預けているんですが、深いダートだったら保つんじゃないかと相談してみたら、“やりましょう”と。じゃ、1年ぐらいは待ちますから、じっくりやって下さいとお願いしたところ、先日ようやく3歳の冬でデビューが叶ったんです。
名前はバッファゴー。1秒7差のぶっちぎりで勝ってくれました。
勝ちもそうなんですけど、あの馬が競馬の舞台に立てたのが、本当にうれしくて…」
馬に対する愛情が垣間見えるエピソード。紡いできた人や馬との縁を大切にしているがゆえの喜びが、今、山口さんに訪れているような気がしてならない。
最後に馬主になってよかったことを聞いてみた。
「一口馬主でもそうなんですが、馬の成長を見ていく、一緒に応援できる。そんな立場で競馬を見られるということですかね。そこには大きな夢もありますし。
毎週充実した週末を迎えられているので、ものすごくいい趣味を持ったなと思いますね」