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第51回 類いまれな闘争心~吠えるゴールドシップ~

2014.06.13
 騎手を辞めて早14年。
 引退して間もない頃にお声をかけて頂いた仕事の1つに、関西テレビでのゲート前リポートがあります。GⅠレースにおける発走直前の各馬の様子をゲート横から伝えるのが主な内容なのですが、気づけばかれこれ10年以上に...。
 当初は何を伝えていいのか?どういう言葉で状況を表現したらいいのか?さっぱり分からずド緊張の連続。そんな私を察し、さりげなく馬の様子を囁いて下さる先輩騎手もいらっしゃいましたが、当時は今以上に把握できていない事がたくさんあったように思えます。と同時に、やはりあの場でしか感じることができないであろう不思議な体験もしてきました。

 例えば、気が入るということばがあるように、発走直前に急に体が膨らんだ馬や、騎手と馬が1つの物体となって見えた瞬間などがあり、そしてそのように感じた馬が勝利する結果になるのです。

 しかしこの春、何よりも衝撃的な瞬間を目の当たりにしました。
 それは春の天皇賞でのゴールドシップの声。これはゲート裏のみといった限定話ではなく、私が馬と出会ってから初めて耳にした馬が吠えるという行為。

 鳴くのではなく、吠える...。しかも地鳴りを思わせるような、深い深い奥底から振動するような声で、一瞬、寒気すら感じたほどの恐怖でした。猛獣を通り越して怪獣のような恐ろしさと、馬がこのような音を発するのだ~という驚きに、思わず私もキャーキャーと声を乱してしまいました。

 そしてゲートが開かれ、厩務員さん方とスタンドへ戻るバスへと向かう際、すぐさまゴールドシップの担当である今浪厩務員の元にかけよると、同じく第一声が、「吠えとったわ」と。そして、「隣のフェノーメノにケンカ腰になっていた」と愛馬の気持ちを代弁。

 そして数分後に決着したレースの勝者はフェノーメノに...。

 もし今浪厩務員のおっしゃるとおり、本当にフェノーメノを威嚇していたとするならば、やはりゴールドシップはあのレースでの勝者を理解していた可能性は十分に考えられる気がします。

 というのも、馬はもともと群れをなし生活をしてきた生き物。集団の中でボス争いがあっても何ら不思議はなく、あのレースの直前、強いオーラをフェノーメノに感じ、既に戦いを挑んでいたのかも?!走ることではなく、正真正銘のケンカを...。

 レースでこそ負けはしましたが、あのスピリットは、まさに王者の証。あの負けたくないという強い意志は、父となった際に多くの産駒に引き継がれるように思え、早くも将来が楽しみに思われるほどでした。

 そういえば過去、内田騎手がこの馬に騎乗する際には、地下馬道から喉が嗄れるほど叫んでおられ、ゲートイン間際には、「ウォー・ウォー」と吠えていたこともありました。今にして思えば、なめられる前に内田騎手が吠え、ゴールドシップを威嚇し、力関係を兼ねての戦いが行われていたのでしょう。

 それにしても普段から馬のみならず人間をもなめてかかるゴールドシップ。今回の姿に、改めて日々この馬に接する方々の勇気と手腕を感じずにはいられませんでした。

 さてこのコラムが掲載される頃には、既に今年のダービー馬も決まっているのでしょうね。直前となり、個人的には蛯名騎手のイスラボニータか?はたまた橋口師のワンアンドオンリーか?この2頭の対決になる気がしてならず、どちらを本命に選ぼうか?この1ヵ月、悩み中です。

 それでは皆さん、また来月お逢いしましょう。
 ホソジュンでしたぁ。
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