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第41回 『スマートスーツ』 PART2

2012.05.24
 しかもスマートスーツライトは騎乗調教用だけではない。寝わら上げといったような厩舎作業の負担や疲労も軽減するものも、実際に開発されているのだ。
 いや、むしろ雪国北海道に住む競走馬関係者の皆さんにとっては、「雪かき作業用スマートスーツライト」と表記した方が、その用途や姿を想像してもらいやすいのかもしれない。実際に北海道内で放送されている夕方のニュースでも、「雪かき作業用スマートスーツライト」は取り上げられ、実際に着用した北大の学生に雪かきをしてもらい、仕事の効率やその後の運動能力の変化などを測定。ほとんどの数値で「スマートスーツライト」着用者に優位なデータが出ていた。

 雪かき、そして厩舎作業の中で大きな時間を割く寝わら上げで必要な行動といえば、スコップやフォークを持って屈み、そして持ち上げること。見るからに腰に負担がかかる動きであり、騎乗者でなくとも、腰を痛めたという競走馬関係者も多いことだろう。

 前回のコラムにも書いたように、「スマートスーツライト」を着用することで、騎乗した際の筋負担が軽減されるだけでなく、長時間に亘って前屈姿勢をとり続けた場合にも筋力を補助し、つまり騎乗フォームを保ち続けることが容易となるのだ。筋電図の計測となるが、「スマートスーツライト」を着用して競走馬に騎乗した際、筋負担が最も軽減されるのは大腿四頭筋であり、続いてはハムストリングス。つまり下半身の負担が軽減されるだけでなく、着用者からはしっかりとサポートされている感覚があるとの声も聞かれていた。

 また、厩舎作業用の「スマートスーツライト」は、実際に着用した農業従事者の感想が「軽労化研究会」や「日本農業新聞」にも発表されており、腰を屈めての作業が楽になったという感想が述べられている。「スマートスーツライト」は様々な可能性を秘めている。例えば介護の現場で患者さんを移動させる時、また工事現場などで重量物を移動させたりする時にも、筋負担の軽減やサポートは長時間の労働の助けとなるだけでなく、筋力が衰える年齢となってからの労働も可能となるはずだ。

 メリットばかりを書いた「スマートスーツライト」だが、まだまだ改良すべき点も多い。まずはコストの問題。大量生産が可能となれば、1着当たり1万円以下での販売も可能だというが、そのためにはまだ「スマートスーツライト」の様々な現場における普及や、広告活動が必要となる。

 また、騎乗調教用の「スマートスーツライト」でいうと、「騎乗者の体型に合わせた形状の方が、補助効果が上がる」との着用者の声も聞かれており、基本的にはオーダーメイドでの生産を余儀なくされることとなりそうだ。また、着脱の手間や時間、そして夏期シーズンでの透湿性など、利用者のニーズに応えて行く上で、改良すべき点はまだまだ出てきそうでもある。
 
 先日の「軽労化研究会」では、研究に携わる北海道大学の学生の方から、こんな面白い話を聞いた。自分が、「スマートスーツライトを着用すれば、騎乗時の姿勢が安定する。つまり、初心者の乗り役に着用させれば、正しいフォームで馬に乗れるだけでなく馬の負担も減るのでは?」と質問すると、馬の負担や疲労については、今後の研究に取り入れていきますとの言葉を返してもらった後で、「モーターを使ったスマートスーツですが、一流騎手のデータを取り込めれば、同じ姿勢で騎乗することも可能となるかもしれません」と笑顔で話してくれた。まさに着用しただけで常人の3倍、いやトップジョッキーそのものになれる!とは書き過ぎだが(笑)、実際に騎乗経験の少ない乗り役に着用させてみると、また違った効果があるのかも知れない。

 ちなみに「軽労化研究会」では「スマートスーツライト」の実物も手にすることができた。人によっては着用も可能だったが、何せ人の3倍?大柄な自分は、その効果を実感することができなかった。量産化の暁にはぜひとも大きなサイズもラインナップの中に入れて欲しい。そして着用が叶った暁には、知り合いの牧場に出向いて、ちょっとだけでも寝わら上げを手伝わせていただこうかと思っている。
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