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第188回 『1歳馬品評会』

2024.08.22

 偶然が重なることを「シンクロニシティ」と呼ぶらしい。


 4月中旬、平取町軽種馬生産振興会の船越伸也会長から、「6月17日に品評会を開催する予定です。審査員を依頼したいと思っているのですが、その日の予定はどうですか?」とのMessageが届いた。すると4月下旬には三石軽種馬生産振興会の平野謙二会長からも、「三石地区の軽種馬1歳馬育成管理品評会を6月3日に予定しています。もし良かったら審査員をやりませんか?」とのショートメールが届いた。


 以前は各地区で開催されていた1歳馬の品評会だが、現在は平取地区と三石地区だけとなっている。平野会長からは昨年も、「三石地区の品評会に来ませんか?」と声をかけていただいたものの、父親の百箇日法要と重なっていたこともあり、参加を辞退させていただいた。


 それが今年、再び平野会長から品評会参加への話をいただいただけでなく、船越会長からも声をかけてもらったのには驚いた。しかも、2つの品評会ともに審査員としての参加だという。


 船越会長の電話には、「審査員が自分でいいのですか?」と聞き返したのだが、平野会長からの申し出に対しては、「船越会長と事前に打ち合わせをして、今年はお互いに村本を審査員にして、あいつがどんな審査をするか確かめてやろうか、なんてことは無かったですよね?」との言葉が喉まで出かかった。


 実はこれまで品評会の存在は知っていながらも、取材を含めて一度も参加したことは無かった。


 競馬雑誌に原稿を執筆するようになってから今年で28年。これまでにせり市やクラブ法人のツアー、そして牧場取材などで、数えきれないほどの1歳馬を見てきている。


 その中には後のGⅠ馬もいれば、せり市で何億円もの評価が与えられた馬もいた。ただ、その未来を想像できたかと言われれば、答えは否である。後のGⅠ馬の中には、ほんの数秒間だけ目の前を通り過ぎていっただけの馬もいたからだ。


 これまでのライター生活の中で、相馬眼は養われたかどうかは分からない。ただ、血統の知識が増えていくことで、配合種牡馬の特徴と、目の前の馬のイメージを重ね合わせることは、何となくできるようになっていた。


 産駒に共通する特徴を見つけ出すと、種牡馬の遺伝が強く出ているのだろうと思えただけでなく、その特徴が出ていなければ、母や母父の影響が出ているのだろうと考えるようにもなった。


 幸いなことに、両方の品評会では事前にブラックタイプが記された資料が届いていただけでなく、平取町の資料には立ち姿の写真も掲載されていた。これならせりやクラブツアーと同様に、馬体の特徴を掴んだ上で品評会に臨むことができる。


 ただ、せりやクラブツアーで好みの馬を選ぶのと、品評会で馬を評価するのは、また違うことに気付かされた。せりとクラブツアーで馬を選ぶ際に心がけていることは、「取引額(募集価格)に近似した獲得賞金を得られるか?」ということである。これまでせりで馬を購入したことも無ければ、クラブ募集馬を1頭も購入したことがない自分が、こんなことを考えるのはピントがずれている気がするが、「父が出た馬体と、この血統背景ならば、上のクラスでの活躍も見込めるはず。あわよくば重賞も狙えるはず」と思えた1歳馬に関しては、ウォーキングもしっかりと見るようにしている。ある意味、村本スカウトが発掘した逸材が、その後、どのような活躍をしたかはさておいて、馬を評価する基準の中には「金額」も頭にあったのは事実だった。


 だが、品評会で選ぶ馬は、純粋に見た目のいい馬を評価する必要がある。その時にいつも頭を悩ますのが、「いい馬って、どんな馬なのだろう?」という永遠の課題でもあった。


 その中で誰もが認める「いい馬」を見つけ出す、格好の方法があった。それはせりの事前展示やクラブツアーの下見において、「人垣ができている馬を見に行く」ことだった。クラブツアーの人気馬は血統的に魅力のある馬が多いが、せりのプロたちが様々な角度から馬体を観察した上で、ウォーキングをさせている上場馬に関しては、その馬体や動きを事細かくせり本に書き込むようにしていた。


 だが、品評会では自分が取り囲む当事者となる。いい馬に対する概念を固定できない中で、三石地区の品評会当日を迎えた。(次号につづく)

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