北海道馬産地ファイターズ
第194回 『研修会からの研修会 PARTⅢ』
名司会者の影には、必ず優れたブレーンの存在がある。司会者からの機転の利くコメントは、答えが想定されていたかのような、台本が用意されている。また、滞りなく番組を進行できるのも、時間を操っているかのような、しっかりとした構成がされているからである。
最近は出役の仕事が増えてきた筆者であるが、それが何とかこなせているのは、「構成作家である自分(村本浩平)が、出演者の村本浩平に台本を読んでもらう」という準備をしているからだ。これを、「なんちゃって大橋巨泉」と自分の中で言っているのだが、日本軽種馬青年部連絡協議会の研修会では、司会業だけに専念することができた。それを可能にしたのは優れたブレーンである、胆振軽種馬農業協同組合事務局の高橋啓太氏の存在だった。
日本軽種馬青年部連絡協議会が主催した、「来年度の種付シーズンに向けて~血統のプロたちによる最新種牡馬解説~」というテーマでの研修会。そこで筆者は司会という大役を仰せつかることになった。
その前に行われた「担い手経営管理研修」では、パネラーとして司会を務めていた朝井洋氏からの質問に答えるポジションであったが、今回は自分が司会者となり、決められたトークテーマで議論を進めていかなければならない。
幸いだったのは、パネラーである血統評論家の栗山求氏と望田潤氏、そして、社台スタリオンステーションの三輪圭祐氏とは旧知の仲であり、栗山氏とは動画配信で、三輪氏とはイベントでクロストークをした経験があった。そして札幌在住の望田氏とは、ちょくちょく会って飲みに行く間柄でもある。
この関係性を更にスムーズにしてくれたのが、前述の高橋氏だった。講習会に先駆けて高橋氏と出演者の4人、そして、日高軽種馬農業協同組合の中村幸輝氏を含めたZoomでの打ち合わせが行われた。
その時点で高橋氏からは、研修会を進行するに当たってのシナリオが出来上がっていただけでなく、そこにはトークテーマごとの分数まで書かれていた。
自分も構成作家として、トークテーマとなりそうな原稿は作ってみたのだが、高橋氏から送られてきたPDFの内容を見た時に、他の4人の前で披露するのを止めた。
打ち合わせではそのPDFを元にしながら、このテーマはまだ時間を取る、この種牡馬の話を入れていくといった話し合いが行われていった。その時も高橋氏がしっかりとした進行をしてくれただけでなく、栗山氏、望田氏、三輪氏の3名は、自らが中心となってコメントを行う種牡馬を決めていく。
Zoomの会議は1時間を超えるほど白熱した。しかも、高橋氏はここでの叩き台を元に、またシナリオを練り直してくれるという。
担当する種牡馬が決まったことで、パネラーの3名は本番に向けて、更に血統的知識を深めてくるはずだ。中村氏も会議中には頻繁にメモを取っていたので、そこで見つかった問題点や修正点を高橋氏に伝えながら、更に完璧なシナリオができあがるのだろう。
となれば、司会者のすべきことは何があるのだろう?Zoom会議の画面が消えた後から、そんなことを考え続けた。
先日の「担い手経営管理研修」における朝井氏は豊富な司会経験に裏付けされたスムーズな進行だけでなく、豊富な知識や経験を元に自ら発言していくだけでなく、パネラーへの質問も用意してくれていた。
だが、今回の「来年度の種付シーズンに向けて~血統のプロたちによる最新種牡馬解説~」だが、自分が栗山氏、望田氏、三輪氏よりも血統が詳しいわけがない。せめて質問をしようにも、それも高橋氏がシナリオの中にしっかりと書き込んでくれている。
それでも、司会者として選んでもらったからには、少しでも朝井氏に近づけるような名進行をしなければならない。
その時に自分ができると閃いたのは、スムーズな話の展開とタイムキープだった。
筆者は司会者の経験こそほとんどないが、ライター歴は間もなく30年を迎えており、それに応じて取材歴も長い。
マンツーマンでの取材はお手の物であり、相手の話したい言葉を聞き出す一方で、こちらの質問に答えてもらうトークテクニックはある。しかも、予定された取材時間に収まるための、トークテーマの切り替えもできる。
シナリオこそあるとはいえ、パネラーの3人は血統への知識があり余るがばかりに、予定された時間内にトークが収まらない可能性が高い。そこで司会者である自分が、上手く会話を誘導できたのなら、違和感なく次のトークテーマへと進んでいける。それを思いついた時に、「この戦勝てるッ!」と思わず口走っていた。
(次号に続く)