馬ミシュラン
第6回 GI8勝の壁は高く
2009.06.01
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「やはりそこには高い壁があるのか」。降りしきる雨の中,そう思わずにはいられなかった。
5月5日,船橋競馬場で行われたダートグレード競走かしわ記念(Jpn1)。G1級レース日本最多の8勝へ臨んだカネヒキリだったが,先に抜け出したエスポワールシチーを捕らえ切れず2着に敗れた。ゴール入線後,内田博幸騎手が下馬。装鞍所付近で引いている姿をじっと見ていたが,見た目は「左前がちょっと跛行しているかな?」くらいだったのだが,翌日の検査で左第3指骨の骨折が判明。全治は未定とのこと。現役でG1 8勝最有力だっただけに,非常に残念である。
船橋競馬場はスパイラルカーブを採用し,中央の騎手も「クッションが効いて乗りやすい」と評判の馬場である。しかし,それは良馬場での話。ひとたび雨が降れば,そこは浅瀬の埋立地。馬場に水が浮いて,田植え前の水田のようになる。クッション砂が流れて,硬く,時計の速い馬場に一変する。同じレースで7着に敗れたゼンノパルテノンも,レース後右第1指節種子骨骨折が判明した。2年ほど前だったか,開催前から雨が降り続き,追い切り,レースと故障馬が多発した開催があった。昨年,路盤から改修して大分良くなったかに思えたが,根本的な土地の問題なのだろうか,すぐまた元に戻ってしまった。
今回の「壁」はそういった要因によってのものだろう。左前は屈腱炎という爆弾を抱えた箇所だけに,油断ならないが,とりあえず本稿執筆時点で現役は続行,骨折の完治を目指すそうだ。
84年のグレード制施行後,シンボリルドルフ,テイエムオペラオー,ディープインパクト,アドマイヤドン,ブルーコンコルド,そしてカネヒキリと,G1級レース7勝馬はこれまで6頭。そのうち現役競走馬であるブルーコンコルドとカネヒキリの2頭に,今のところ「G1級レース8勝」のリーチがかかっている。
例えばプロ野球の年間最多本塁打記録なら,55本に並んだ時点で敬遠攻めされ,01年のローズや02年のカブレラのようなタイ記録止まりというケースは,まあ考えられる。しかし,馬の場合は現役生活が長くても7〜8年だけに,最後は年齢的な衰えとの戦いとなることが多いようだ。
シンボリルドルフは海外遠征初戦のサンルイレイSで故障,ディープインパクトは凱旋門賞で3位入線も失格。最後は海外のレースに挑戦し,達成し得なかったケースである。恐らくもう1年国内で走れば,この2頭なら8勝か9勝か,あるいは10勝も達成できたかもしれない。そのあたりが,「壁」の不思議な因縁である。
テイエムオペラオーはリーチの状態から,現役最後のシーズンはG1を2,2,2着とし,最後に臨んだ有馬記念で5着に敗れ引退した。年齢的なリミットだろう。4歳時1年間負けなしの活躍で,そこがピークだったか。アドマイヤドンは芝の朝日杯FSに勝ち,3歳秋のJBCクラシックを皮切りに,5歳秋までダート路線のトップに君臨した。最後は古馬芝路線のタイトルを狙ったが,それまでほぼ3年近い大活躍で,この馬もまたタイムリミットだったのだろう。
グレード制発足当初,G1レースは15競走だったが,その後増え,中央競馬は現在22競走,97年から地方のダート競走も格付けされることになり,現在,地方競馬のダートG1(Jpn1)は9競走。合わせて31競走となっている。シンボリルドルフやディープインパクトのようにクラシック3冠を制し,古馬路線でも順調に戦うか,あるいは,テイエムオペラオーのように2歳か3歳で1つか2つ,その後古馬G㈵を総なめに近い形で制する馬はそうは出てこない。前述の通り,G1レースはかなり増えて,チャンスも比例して増えている。特にダートのレースは狙い目で,今後もアドマイヤドンやブルーコンコルド,カネヒキリのように「壁」に挑戦する馬は出てくるだろう。
カネヒキリ休養で,目下達成のチャンスはブルーコンコルドにある。齢9歳にして今季川崎記念4着。これまで4年連続G1(Jpn1)を制していて,これまで触れた馬とは違う「コツコツ型」だ。しかも中央G1は未勝利。史上初の4連覇のかかった南部杯が秋に控え,今年のJBCスプリントはゲンのいい名古屋開催。カネヒキリの休養中に,案外達成してしまうかもしれない。
JBBA NEWS 2009年6月号より転載
5月5日,船橋競馬場で行われたダートグレード競走かしわ記念(Jpn1)。G1級レース日本最多の8勝へ臨んだカネヒキリだったが,先に抜け出したエスポワールシチーを捕らえ切れず2着に敗れた。ゴール入線後,内田博幸騎手が下馬。装鞍所付近で引いている姿をじっと見ていたが,見た目は「左前がちょっと跛行しているかな?」くらいだったのだが,翌日の検査で左第3指骨の骨折が判明。全治は未定とのこと。現役でG1 8勝最有力だっただけに,非常に残念である。
船橋競馬場はスパイラルカーブを採用し,中央の騎手も「クッションが効いて乗りやすい」と評判の馬場である。しかし,それは良馬場での話。ひとたび雨が降れば,そこは浅瀬の埋立地。馬場に水が浮いて,田植え前の水田のようになる。クッション砂が流れて,硬く,時計の速い馬場に一変する。同じレースで7着に敗れたゼンノパルテノンも,レース後右第1指節種子骨骨折が判明した。2年ほど前だったか,開催前から雨が降り続き,追い切り,レースと故障馬が多発した開催があった。昨年,路盤から改修して大分良くなったかに思えたが,根本的な土地の問題なのだろうか,すぐまた元に戻ってしまった。
今回の「壁」はそういった要因によってのものだろう。左前は屈腱炎という爆弾を抱えた箇所だけに,油断ならないが,とりあえず本稿執筆時点で現役は続行,骨折の完治を目指すそうだ。
84年のグレード制施行後,シンボリルドルフ,テイエムオペラオー,ディープインパクト,アドマイヤドン,ブルーコンコルド,そしてカネヒキリと,G1級レース7勝馬はこれまで6頭。そのうち現役競走馬であるブルーコンコルドとカネヒキリの2頭に,今のところ「G1級レース8勝」のリーチがかかっている。
例えばプロ野球の年間最多本塁打記録なら,55本に並んだ時点で敬遠攻めされ,01年のローズや02年のカブレラのようなタイ記録止まりというケースは,まあ考えられる。しかし,馬の場合は現役生活が長くても7〜8年だけに,最後は年齢的な衰えとの戦いとなることが多いようだ。
シンボリルドルフは海外遠征初戦のサンルイレイSで故障,ディープインパクトは凱旋門賞で3位入線も失格。最後は海外のレースに挑戦し,達成し得なかったケースである。恐らくもう1年国内で走れば,この2頭なら8勝か9勝か,あるいは10勝も達成できたかもしれない。そのあたりが,「壁」の不思議な因縁である。
テイエムオペラオーはリーチの状態から,現役最後のシーズンはG1を2,2,2着とし,最後に臨んだ有馬記念で5着に敗れ引退した。年齢的なリミットだろう。4歳時1年間負けなしの活躍で,そこがピークだったか。アドマイヤドンは芝の朝日杯FSに勝ち,3歳秋のJBCクラシックを皮切りに,5歳秋までダート路線のトップに君臨した。最後は古馬芝路線のタイトルを狙ったが,それまでほぼ3年近い大活躍で,この馬もまたタイムリミットだったのだろう。
グレード制発足当初,G1レースは15競走だったが,その後増え,中央競馬は現在22競走,97年から地方のダート競走も格付けされることになり,現在,地方競馬のダートG1(Jpn1)は9競走。合わせて31競走となっている。シンボリルドルフやディープインパクトのようにクラシック3冠を制し,古馬路線でも順調に戦うか,あるいは,テイエムオペラオーのように2歳か3歳で1つか2つ,その後古馬G㈵を総なめに近い形で制する馬はそうは出てこない。前述の通り,G1レースはかなり増えて,チャンスも比例して増えている。特にダートのレースは狙い目で,今後もアドマイヤドンやブルーコンコルド,カネヒキリのように「壁」に挑戦する馬は出てくるだろう。
カネヒキリ休養で,目下達成のチャンスはブルーコンコルドにある。齢9歳にして今季川崎記念4着。これまで4年連続G1(Jpn1)を制していて,これまで触れた馬とは違う「コツコツ型」だ。しかも中央G1は未勝利。史上初の4連覇のかかった南部杯が秋に控え,今年のJBCスプリントはゲンのいい名古屋開催。カネヒキリの休養中に,案外達成してしまうかもしれない。
JBBA NEWS 2009年6月号より転載