JBIS-サーチ

国内最大級の競馬情報データベース

第23回 有吉さんの夢

2010.11.11
 このところ毎年の話ではあるが,馬券の売得減が止まらない。「何故止まらないの?」。それが判れば対策も立てられようなものだが,下がり続けているところをみると,対策は立てられない,原因は判らない,のかもしれない。ちょっと前にはレジャーの多様化,最近は景気の低迷といったところが不振な理由の定番だ。
 この夏,週刊競馬ブック誌上に於いて,「馬券の未来を考える」と題した短期集中連載が掲載された。その中で「フレキシベット」導入を望む提言がなされている。

 フレキシベットと聞いて思い出すのは,このJBBA NEWSに寄稿されていた有吉さんが,連載を終えられた後競馬場でお会いした時に,挨拶がてら「導入実現が夢。力を注ぎたい」と熱く語っていた,まさにそれであった。

 フレキシベットとはFlexible Betting。日本語では「総額賭け」と訳されている。これまではたとえば3連単を60点買うとしたら,100円×60点で6000円必要だった。しかし,財布に3000円しかなかった場合,フレキシベットなら60点を3000円分といった買い方が出来る。実質1点50円の計算となり,当然的中した場合の払い戻しも50円分,つまり半分である。

 当然端数の処理(1点あたり11円10銭とか)が問題になるし,最低でも1点あたり1円以上でないと売れないだろう。現実的には10円以上だとは思うが。流通していない銭単位も課題だが,払い戻しが1円単位だと面倒なので,PATか,バウチャーか,チャージ式の競馬場専用電子マネーか,そういった現金を持ち歩かない仕組みも必要だ。まあ,そんな細かい話は今回はいい。

 「旗幟鮮明にせよ」と言われたら,もちろん導入賛成だ。3連単だけでなく,今後導入されるであろう5重勝,特にセレクト式には有効であると思われる。ただ,それが馬券の売得向上に繋がるかと言えば,NOだと思う。これは普通の商売の原則と全く一緒だ。

 例えば一本100円で売っているバナナを,10個に小分けして1口サイズで売ったら,意外に1本分の利益も出ない。ロスが出るし手間も掛かる。結果1個15円位で売らないと利益が出ない。当然ふさで買った方が安い。普通の消費者動向だ。

 小額馬券で利益を出すとすれば,購買者が増え,かつ端数をバッサリ主催者が頂くことか。小額馬券は買う側からはある程度の目減りは避けられない。それに主催者側も通常の100円馬券が減るから,バナナと一緒なのである。

 フレキシベットではないが,アメリカでは2005年に馬券の発売単位の引き下げを行った競馬場がある。いわゆる「10セント馬券」である。これはスーパーフェクタ(4連勝単式)で導入され,以降50セントのPick4(4重勝)やTrifecta(3連単)など導入されたが,結果,当該馬券の売得増をもたらしたが,売得全体に対する影響は,当初競馬場,馬券の種類によりまちまちも,数年でみな減少に転じている。

 競馬場,場外に来るファン,PATを持っているファンを対象にしても,結局は財布の総額が決まっているから増えることはない。「CLUB KEIBA」のように友人を連れてくるか,あるいは普段競馬に興味のない友人,知人に「今度の秋華賞はアパパネ絶対来るよ,俺が買ってきてやろう」と儲け話を持ちかけ資金を集めて買うか。それなら競馬場外からの売得増が望める。しかし,絶対やってはいけません(笑)。これは間違いなく法に触れるし,人間関係も壊す危険性大だ。

 冗談はさておき,どの競技も試行錯誤しているようで,競艇では「2連勝ナイトフェスタ」という企画が行われる。その節(開催)だけ3連勝,ワイドの発売を止め,単複の他は2連複,2連単だけを発売。ついでにスタート展示もその節は行わない,という企画だ。3連単120分の1よりもっと当たりやすい2連複15分の1,2連単30分の1で当たる楽しさを味わって欲しいという。難易度の高い馬券を,単価を落として発売するフレキシベットとは真逆の発想だけに,そこから得られるデータには,ある意味注目している。

 ちなみに今年の帝王賞。全賭式における比率は3連複16.9%,3連単49.8%,3連勝合わせて66.7%であった。売得は別として,有吉さんの夢実現のヒントはそこにある。
トップへ