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第87回 『タテ21mm×ヨコ11mmの世界』

2016.03.18
 当初の予定よりも大幅に遅れて、まもなく新システムが稼動の運びとなる。それに合わせて、馬柱など紙面の中も新たに作り直すため、目下ヘロヘロになりながら作業している。
 現行の電算システムが稼動したのが平成4年。それ以降、競馬の制度変更にあわせマイナーチェンジを繰り返してきたが、基本的な部分は変えなかった。前回の電算化は筆者の入社前で、イチから作り変えるのは、今回が初めての経験。基本的に'日刊競馬らしさ'を維持するようにはしているが、見た目全く変わらない部分も含め、全てイチから作り直しである。そもそもシステムが違うのだから当たり前なのだが。

 スタート時の構想では大幅に変更するつもりでいた。現行システムが稼動して22年。その間に競馬のシステム自体も大きく変わった。地方競馬だけでも、中央・地方交流がスタートし、ダートグレード競走と条件交流が行われ、また場間場外発売も当たり前のように掲載。馬の移籍や再転入、外厩調整馬や海外遠征、海外からの遠征馬も来るようになった。JBCなど他場のレースが南関東版1面のメインレースとして扱われることも増えた。以前は各開催競馬場のみだった調教時計や談話は、トラックマンの取材体制を整備して全馬掲載となった。

 それに伴い、紙面の要求量も増え、4ページから6ページへ、時には8ページになることもある。中央版は4ページから、6ページ、さらには8ページへと増えている。

 それでも紙面はまだ足りないのが実情で、当初は日刊紙同様の15段割12倍(1行12文字)110行にしたかった。そうすることによって1面あたりの文字数を現行の12段割14倍110行の18,480文字から19,800文字に増やし、さらに段割を細かくすることにより、無駄なスペースが生ずることを解消しようと思っていたのだが、最近のトレンドは段割を少なくして、文字を大きくする方向で、逆行する案は社内(老眼の人が多い)で賛同を得られなかった。その代わり、横に若干拡張し、111行18,640文字で妥協した。

 横への拡張も、輪転機が紙を摘む部分はどうしても汚れが出る点を印刷部から指摘され、容易ではなかった。なんとかギリギリの線で話がまとまった感じだ。

 体裁が決まりようやく馬柱に取り掛かることになったが、縦の大きさが変わらないことから、現行の馬柱がそのままベースとなり、これで新たな要素を入れることが難しくなった。現行の馬柱は今は亡き上司が組んだものだが、字級や扁平の使い方が巧みで、完璧に組まれすぎて、無理に弄ろうとするとバランスが崩れてしまうと組版の担当者とよく話していた。当初から縦ではなく横に拡張するつもりではいたが、結局は罫線を工夫するなど外寸はそのままで、書体を調整して大きく見せる方向となった。

 馬柱のハコ(会社によってコマとかマスとか呼び名は様々)はタテ約21mm×ヨコ約11mmの非常に小さい空間だが、ここに最大70文字を組んでいる。さらに白抜きや記号を駆使し、それ以上の情報を詰め込んでいる。それが日本の競馬新聞最大の特徴である。

 適当にやろうと思えば実に簡単な話で、ベタな書体でベタに組めば何にも苦労はしないのだが、やはり見やすさには拘るべきで、何度も試作を繰り返したが、書体の使い方ひとつで大きく印象が変わる。要素が同じなのに、日刊競馬に見えない馬柱が出来上がったこともあった。基本的に要素は変えず、今回は文字を大きくするなど見やすさの改良に留まったのは心残りで、今後の課題となったが、同時に実際に柱組をやってみて、馬柱の奥の深さを知ることとなった。

 前述の通り、現行のテイストを残しながらの制作作業となったが、馬柱全体はモデルチェンジしている。基本的には集計項目を増やすことと、あるべき数字はあるべき場所に置くことにした。例えば当該距離や当該コースの実績を比較しやすくし、また騎乗成績は騎手名の側に置くなど、なるべく馬柱で完結するように心がけた。

 スピード命の競馬専門紙だけに、プログラミングする制作側からの要請(例えば、部品を柱の長さに関わらず同じ配置が出来るようにブロック化する)もあり妥協した点もあるが、概ね構想通りで、今後の改良点も既に押さえている。

 何事もなくスケジュール通りに作業が進めば、3月末にはお手元に届くはずだ。
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