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馬ミシュラン

小山内完友 馬ミシュラン

第28回 輪転機が回らない日々

 東北地方を襲った大地震と大津波は,まさにこの原稿を書いている時だった。後にマグニチュード9.0に修正された大地震が起きた3月11日14時46分,中央編集は結果幻となった土曜の新聞を作り終え,日曜版の準備を。地方編集は翌日の船橋初日の出馬に向け,準備をしている最中であった。

 2004年10月23日に発生した新潟県中越地震の時も,東京都品川区にある日刊競馬編集部は随分と長い間揺れた記憶があるが,今回はそれをさらに超える長く大きな揺れが感じられた。新潟の時には「大きいな」と思いつつも,身構える程度だったが,今回は大量の新聞が入っている重いキャビネットが躍るほどの揺れ。窓の外の街路樹がグラグラと振れていた。

 瞬時に「これはやばいぞ」と思い,後輩にテレビのチャンネルを変えるよう指示。ちょうど大井競馬最終日の開催中だったが,画面の中の山中寛アナウンサーと,競馬ブックの竹内康光氏も青い顔をして,手で机を押えるように,それでも淡々と番組を進行していた。しかし,彼らの背後のセットはグラグラと尋常じゃない揺れ。

 震源は三陸沖。地震が頻発している地域だ。揺れがひと段落してから,被害調査。書庫の本棚が1つ倒れ,社屋と外のつなぎ目のコンクリートが割れた。あとは社内数名の机の上の資料が崩落した程度だった。札幌,函館,福島の支社,美浦の支局は不通。後にいずれも大きな被害がなかったことが報告された。

 続く茨城沖の地震。震度的にはこちらの方が大きく感じられた。そして津波。防災センターから会社横を流れる目黒川にも津波が押し寄せるかもしれないと警告あり,防潮板設置。新社屋に移って10数年。1度訓練で組んだのを見たことあるが,実際に使うのは初めてだった。

 そして,船橋競馬場から,馬場の被害甚大のため,競馬開催中止の知らせ。黒船賞も中止,ダイオライト記念も中止となってしまった。

 「さあ,帰るか」と思ったら,今度はまさかの帰宅困難者。会社が近隣のホテルに問い合わすも満杯,あるいは空いているが受け入れ困難。結局帰宅できない社員総勢16名で会社に宿泊することになった。会社泊は何度も経験あるが,仕事もなく夜を明かすのは初めてだ。

 結局,土日の中央競馬,船橋,そして浦和と相次いでの中止決定。地震,津波,そして原発。さらには計画停電。競輪,競艇,オートも続々開催中止を決定。幸い,ばんえいや佐賀,高知,園田,荒尾など,西日本の地方競馬は問題なく開催している。「こんな時に競馬とは不謹慎な」という意見も散見されたが,調べたら,阪神・淡路大震災の時は,中央は1週休んだだけ。地方競馬も兵庫以外は通常通り開催されている。実際,園田では自粛も検討されたようだが,「震災でたくさんの方に助けてもらった恩返しを」と,被災地支援のために開催決行に踏み切ったという。妙な自粛ムードも漂うが,経済活動を止めたら,さらに復興が長引くだけだろう。

 日にちが経って,だいぶ被害の詳細が分かってきたが,震源に近い岩手も,競馬開催に支障が出るほどの被害はなかったようだ。こういう時「競馬関連の仕事はあまり役に立たない仕事だなあ」といつも思うのだが,「むしろ我々の仕事は震災復興に力を発揮する」とも思っている。前述の通りすでに,震災復興競馬が各地で行われているし,開催される競馬場,場外に於いても募金活動が行われている。小紙「日刊競馬」も,微力ではあるが売り上げの一部を義援金として拠出することを決めた。

 思えば競馬は,特に地方競馬は戦災復興,災害復興に多大な財政的貢献をしてきた。中央競馬も,阪神・淡路大震災の折,6月の震災復興競馬で約24億円を拠出している。我々も競馬サークルの一部として,もちろん少しでも多くの義援金が集まるよう,ファンのみなさんが興味を持てるような紙面作りを心がけるつもりだ。

 中央,南関東の開催中止が決定された翌週。社内をぶらぶら徘徊する社員が多かった。編集部だけでなく,大方機械の点検を終えた印刷部員など他の部署も。やっぱり新聞屋。輪転機が回らない日が続くと,なんだか切ない気分になる。