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馬ミシュラン

小山内完友 馬ミシュラン

第55回『ラスト・シンデレラ』

 6月5日、大井競馬場で第59回東京ダービーが行われた。羽田盃馬アウトジェネラルが1番人気に推され、京浜盃馬ジェネラルグラントが2番人気、東京2歳優駿牝馬と東京プリンセス賞に勝ったカイカヨソウが3番人気。

 レースは最後の直線でカイカヨソウが逃げるイヴアルブに外から並びかけ、連れてジェネラルグラントが内から、さらに外からソルテが迫る。4頭並んでの叩き合いをジェネラルグラントが制したかに見えたが、さらに大外からインサイドザパークが凄い勢いでまとめて交わしてゴールした。

 インサイドザパークは船橋の林正人厩舎。父タイムパラドックス、母マチカネホシシロキ、母の父サッカーボーイ。生産者は静内の藤本牧場。近親の活躍馬には共同通信杯2着、朝日杯3着のゴットフリートがいる。

 鞍上の左海誠二騎手はデビュー20年目で東京ダービー制覇。表彰式の後に「おめでとう」と声を掛けたら「やっと獲れたよ」と。喜びというよりもむしろホッとしたような、そんな感じにも見えた。それが「ダービー」の重さなのかも。

 さて、この東京ダービーを現地大井競馬場で観戦された方は、賞典台前の「競馬場らしくない集団」を目にされたに違いない。参考までに、当日のイベントと表彰式プレゼンターのゲストは麻倉未希さんだった。あの伝説のドラマ「スクールウォーズ」の主題歌「HERO」を熱唱。筆者も含め1960年代~70年代生まれの方にはど真ん中のストライクで、思わず「イソップ!」と涙を流して叫んでみたくなった(うそ)。その世代は時代が平成に変わる前後に成人を迎え、オグリキャップや武豊騎手などに繋がる世代であり、競馬ブーム終焉後しばらく休眠しているファン層でもある。

 しかし、集団の方々のお目当てはそこではなく、最終レースに組まれた企業協賛レース「ラスト・シンデレラ賞」であった。このC1一組選抜のために、早い人は午前8時頃から並んでいたと。お目当てはドラマ「ラスト・シンデレラ」の出演者、篠原涼子さん、藤木直人さん、三浦春馬さん。アホらしいと思いつつも取材したところ、三浦春馬さんのファンが多かった。イベント目当てだけの集団に「競馬場の住人」は冷たい視線を浴びせる。ある人は「邪魔だった」と言い、またある人はその光景を「違和感」と言う。当日の入場者は1万6,824人、前年比136%と活況だった。東京ダービーの売得も5億4208万7000円、前年比111.1%と数字を伸ばしている。

 近年、本場の入場者減にどの主催者も頭を抱えている。手数料の掛からない、収益率の高いお客様だからだ。在宅投票の普及や場外発売の充実、ファンの高齢化、可処分所得の減少、理由を挙げればキリがない。20年前、毎夜3万人前後を集めていたトゥインクルレースも、今では5000人を割る日も珍しくはない。場内の食堂も、我々専門紙も、売り上げは入場者数に比例する。競馬場に人を呼ぶ事の大切さを日頃から痛感している。

 ある調査でも「競馬場に行った事がない」という回答はまだまだ多い。どんな目的であれ1度足を運んで貰う事はひじょうに大事な事だし、競馬場に来れば馬券も買ってみたくなる。集団の中に偶然友人(三浦春馬狙い)がいた。彼女は競馬ファンでもあるが、後日聞いたところ、隣の人達が馬券を買いたくなったようで、買い方等を教えてあげたそうだ。数千人の中でたとえ数人でも「馬券を買ってみたい」と思わせれば、それは勝利だろう。実際、馬券を買っていた方も多かったし、マークカードの書き方も案内係のおじさんが親切に教えてくれたと、当日初めて競馬場に行ったという女性のブログ(藤木直人狙い)に書いてあった。

 翌日、スポーツ紙各紙に大井競馬場の様子が掲載され、ドラマを放送する局は早朝から前夜のイベントの模様が繰り返し流されていた。これだけでも金額に換算すれば相当の効果だろう。イベントには好意的な人の中に「何もダービーの日にやらなくても」という意見もあったが、イベントを打つ立場からすれば、人が少ない時よりは多い日の方がより効果が高いに決まっているし、たまたま放送の前日だった。

 日頃競馬を支えている常連さんに対する対策は確かに十分とはいえなかった。その点は何か優遇措置があってもよかったし、今後の課題だろう。参考までに、翌日放送されたドラマの視聴率は15.9%。前週を上回ったそうだ。