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第78回 『耳立て王 PARTⅡ』

2015.06.16
 前回に続いて「耳立て王」を目指す自分、そして、皆さんのために書いてみた啓蒙コラムの続きです。前回の最後に書いたのが「目」という言葉。自分の経験談としては、耳立てを行う際に重要なのは「音」が6割で、「目」といった視覚効果が3割だと思っています。ちなみに残り1割は、馬とのテレパシーが通じた奇跡の瞬間とさせてください(笑)。
 僕は耳立てを行う前には必ず馬の目を見て、「これから音を鳴らすよ」と話しかけています。まあ、僕の言葉なんて馬は分かっていないのでしょうが、斜め正面に太った人間(笑)がいるということは理解できたはず。その次に行うのは、鳴り物を動かして更に注目させるという行動です。

 ちなみに立ち写真を撮る際には、馬は持ち手(ハンドラー)の指示を聞いたり、次はどんな指示を出されるのかと意識を向けています。その際に馬に話しかけたり、余計な動作を取った場合には集中力を欠いてしまうことも考えられます。なので、声かけといった行動を起こすのは、軸と左後脚の位置が決まり、右前脚位置を直している時がベターと言えるでしょう。

 馬は持ち手に脚を触られることで、多少は違和感を感じているはずです。その際に目の前で声をかけ、そして何かしらの動きを見せることで、気持ちが散漫になることが考えられます。強いては声をかけることで脚の位置も動かしやすくなるのでは、と思うのですが、この辺は実際に脚を動かしてくださるスタッフの方の意見を仰ぎたいところです。

 脚の位置が決まるや否やの時に、声をかけていた場所よりも、まだ前の位置に移動します。耳を立てる際、あまり前に行くと写真に自分が入り込んでしまうのではと考えられている方も多いのではと思いますが、ライターと耳立ての仕事の合間、たまーに立ち写真を撮っている自分の経験から言わせていただくと、持ち手より前に出なければ、どれだけ近づいてもOKです。

 というのも、写真に収めるのはあくまで立ちポーズを決めた馬であり、いくら引きの写真を撮ろうとも、まさか持ち手や耳を立てている人までを入れた構図は使わないはず。むしろ、後ろに下がりすぎて肝心の音が馬に聞き取れないデメリットを考えるなら、持ち手の邪魔にならない(なおかつ馬が動いても避けられる)位置で、音を鳴らすべきでしょう。

 そして音を鳴らす際に必要なのは、再度の声かけです。僕は声かけの際、「鳴らしまーす」と、馬に話しかけるよりも大きめの声を出します。それは先程も書いたように馬の視線をこちらに向けるだけでなく、持ち手にも写真を撮ることをアピールし、そしてシャッターチャンスをうかがうカメラマンへのアピールでもあります。

 基本的に馬の鳴き声の音を鳴らして、耳がいい位置でこちらを向いてくれたら、あとはカメラマンの皆さんお願いします!という気持ちで耳を立てていますが、こちらのペースで仕事を進めてしまうと、ピントを合わせるといった、カメラマンの準備が出来ていないこともあります。ですからカメラマンとの意思疎通を図って、OKが出た瞬間、あるいはその前に音を鳴らすのがベターでしょう。

 音を鳴らしてからの行動ですが、まずはその音に対する馬の反応を確かめましょう。大概の場合、すぐに耳をこちらに向けてくれますが、思っていた角度に顔が来ない時もあります。この場合は自分が移動して、馬の顔の位置を変える必要がありますが、だからこそ、「音を鳴らしているのは自分」ということを、前々からアピールしなくてはいけないのです。

 また、音を鳴らした際の反応で、緊張と驚きのあまり、首が高くなることも見られます。この際は一度音を止める、違う音を鳴らす、自分の身体をかがめて低い位置から鳴らすなどの対処法があります。こう書いてみると音の鳴る道具は、最低でも2つあった方が良さそうだということにも気が付きます。

 以前、音を鳴らしている時は馬の顔を見ていましたが、最近では脚も見るようになりました。それは時として、休めたままで立ちポーズを決める馬もいるからです。なので、馬と視線を合わせながらも脚元にも注意を払い、休んでいたり、もしくは前屈みになっていた際には音を止め、持ち手や周りのスタッフの方に再度ポーズを作ってもらってから、再び音を鳴らしましょう。

 色々と書いてきましたが、これは自分の経験談であり、本当に正しい耳立てなのかは自分だけでなく、誰も分かりません。でも「耳立て」という、未知の大海原に飛び込んでいく海賊のように、いつか自分だけでなく皆さんも「耳立て王」となる日を、節に祈っております。それでは最後にご唱和を。

「耳立て王に俺はなる!」
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