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第77回 『耳立て王』

2015.05.20
 「耳立て王に俺はなる!」

 これは決して某週刊誌に連載されている、国民的人気マンガの主役が発した、名セリフのパクリなどではありません。2歳馬取材と撮影の立ち会いを行う中で、心の奥底から沸き上がった感情が発した言葉、と思っていただければこれ幸いです。

 まあ、ゴムゴムの実があれば、安全な位置から立ち写真撮影に臨む馬の脚を揃えたり、耳立ての際も、馬のすぐ目の前で音を鳴らすことができるはず。まあ、そんなファンタジーな世界はさておいて(笑)。ここ数年、「優駿」をはじめとする2歳馬取材で、取材馬の耳立てをやらせてもらっている自分なのですが、最近、この耳立てにおいて、何か掴んだような気がしているのです。

 これも全て、完璧な立ちポーズを取らせてくださる牧場スタッフの皆さんや、首の角度や高さなどを教えてくれたカメラマンの方々のおかげなのですが、それでも「ここ!」という位置に耳の位置(含む顔の位置)を持って行けるようになった気がする今日この頃。

 というわけで、写真撮影などで耳立てを苦労されている皆さんに、自分の「掴んだ感覚」をここにまとめさせていただき、耳立ての参考にしていただければと思います。

 まずは耳立てに重要な道具ですが、それはずばり馬の気を引く鳴り物。これは馬の声がベターなのでしょうが、残念ながら自分は江戸屋猫八さんのように、形態模写で馬の鳴き声が出せるほどに芸達者ではありません。

 ということで、最近の立ち写真の撮影ではICレコーダーなどに、馬の鳴き声を録音しておき、それを再生する手法が多く見られています。とはいっても、牧場で働かれている皆さんならご存じのように、そう頻繁に馬は鳴いてはくれません。皆さんが働かれている牧場の厩舎長、あるいは場長や社長に、「馬の鳴き声を録音したいので、今日、1日放牧地にいていいですか?」と言ったとしたら、「こいつ、仕事サボる気だな...」と思われて、厩舎作業が普段の倍になってしまうかもしれません。最近ではYouTubeなどで「馬の鳴き声」を検索すると、幾つか動画が出てくるようなので、そこから音を録音するのが手間もかからないと言えるでしょう。

 ただ、ICレコーダーなどで鳴き声を録音する際の注意点なのですが、できることなら、様々な声を入れること(同じ声ばかりだと馬が飽きるか、人が鳴らしている声だということに気付く)、そしてICレコーダーも音が大きい、スピーカーの大きなタイプを買われることをオススメします。

 よく、取材などで使われるタイプのICレコーダーは、胸ポケットに入るような小さなサイズなのですが、あれは取材には向いていても、誰かに聞かせるような音量を出すためには作られていないからです。スピーカーのことを考えると、一般的なICレコーダーよりサイズは大きくなってしまいますが、それでもスマートフォンよりも小さなサイズも売っているようなので、各自でお調べいただくか、お近くの電器店を覗いてみてください。

 しかし、ICレコーダーもそれなりのお金がかかる。もっと手軽に鳴き声を出せたらなあとお思いの皆さんに勧めたいのが、馬の鳴き声がなるおもちゃです。別におもちゃにかかわらず、何かの動作で馬の鳴き声がすれば、充分に耳立てには役立つと思います。

 ちなみに取材用のICレコーダーしか持っていない(耳立て用のスピーカーの大きなICレコーダーは、カメラマンの方にお借りしています)自分が、耳立ての際に使っているのが、つまむと馬の鳴き声のするクリップ。ちなみにノーザンホースパークの売店で販売されております。

 このクリップ、ICレコーダーに勝る長所はコスト面だけでなく、ICレコーダーよりも、ほんの少しだけですが、すばやく音を鳴らすことができます。やはり機械だとそこまでレスポンスが良くなかったり、場合によってはオートオフ機能が働き、勝手に電源が切れていることもあるからです。実際、自分はここぞというときに再生ボタンを押したにもかかわらず電源が切れていて、音が鳴る前に、ポーズを決めていた馬が動いてしまった時には、「江戸屋猫八さんに弟子入りしていれば、こんなことにはならなかったのに...」と口の形をウグイスの鳴き声をするかのようにしながら、牧場スタッフとカメラマンの冷たい視線をそらし続けていました(一部、誇張あり)。

 それでも、このクリップには最大の弱点があります。それは、毎回決まった鳴き声しか鳴らないこと。使い始めの数回は興味を引けるのですが、慣れ始める、あるいは鳴き声の正体が分かると、たちまち集中力を失い始めます。その際に必要なことなのですが、それは音ではなく「目」なのです。
(次号に続く)
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