北海道馬産地ファイターズ
第180回 『うまカルフェス』
10月28日(土)、午前9時半の北海道市場。その日、せりの開催が無い駐車場には数十台の車と、大型バス2台が止まっていた。
車から降りると、いつもは上場馬が展示されている屋外パレードリンクの方から、イベント告知のマイクが聞こえてくる。声の方に歩いていくと、そこには朝早くから多くの来場者だけでなく、馬車を引く馬、子供を乗せた乗馬、そして繁殖牝馬となったユーバーレーベンと、様々な馬の姿が目に入ってきた。
10月28日に新ひだか町の北海道市場で開催された、「うまカルフェスin新ひだか」。新ひだか町が主催となり、日高軽種馬農業協同組合や、日高育成牧場などの馬に関係する団体や、ビッグレッドファームといった生産牧場などが協力する形で、午前9時から午後5時まで、馬に関する多種多様なイベントが開催されていた。
このイベントをほぼ一人で立案しただけでなく、各イベント出演者への働きかけもしたのが、一般社団法人umanowaの糸井いくみ代表である。イベント当日も右から左へと忙しく動き回っており、立ち止まった瞬間を見計らって、挨拶をするのがやっとだった。
「あの日はバタバタしていてすみません」と後日、電話をした糸井さんは話し出す。当日、会場には2,000人の来場者があったというのも驚きだが、その賑わいに一役も二役も買ったと言えるのが、ビッグレッドファームからイベント会場にやってきた、ユーバーレーベンの存在だった。
「本当は別の馬を連れてきてもらう予定だったのですが、9月に入ってからビッグレッドファームさんから、『馬の変更は間に合いますか?』とのご連絡がありました。その馬がユーバーレーベンだと分かった時には、思わず『え?』と聞き返してしまいました」(糸井さん)
ユーバーレーベンの来場を一般社団法人umanowaのX(旧Twitter)でポストすると、瞬く間にその情報は拡散されていく。この日はユーバーレーベン目当てだった来場者も多いのか、筆者が会場内に入った際にも、ユーバーレーベンが展示された厩舎の周りには、幾重にも人垣ができ上っていた。
だが、その展示がメイン企画とならないのが「うまカルフェス」の凄さだった。同時進行する形で、場内パレードリンク内では馬のイラストレーターである、おがわじゅりさんによる「馬のおえかき教室」が開催。昼にも角居勝彦元調教師と、佐々木祥恵氏引退馬活動トークショーが行われていたかと思えば、その角居元調教師は、夕方から藤沢和雄元調教師とともに、スペシャルトークショーも行っていた。
イベントの企画もさることながら、これだけの人たちに声をかけて、承諾を得た糸井さんの人間力には驚かされるばかりである。「個人のできる仕事としては、ちょっと無茶しすぎたかなと思います。ただ、出演者の方だけでなく、司会をお願いした方や、チャリティーオークションを盛り上げてくださった、日高軽種馬農業協同組合の方々など、イベントを手伝っていただいた皆さんには感謝しかありません」(糸井さん)
まさに大成功に終わった「うまカルフェス」であるが、その一方で糸井さんは、まだ馬の魅力を伝えきれなかったとの思いもある。「馬の世界は競馬だけでなく、その他にも、今回紹介できた流鏑馬披露や、どさんこ講座など、文化的な側面もあります。一日では伝えきれないなとも思っただけでなく、次回はサラブレッドやどさんこ以外の馬も、会場で展示できていたらいいですよね」(糸井さん)
その時は関係者の更なる協力も仰げることになりそうだ。イベントの取材をしていた際に、親子連れで会場に来ていたホッカイドウ競馬の調教師から、「こんなイベントをやっているのならば、ホッカイドウ競馬としても協力できるように働きかけたのに」との話をされた。
糸井さんは話す。「私も来場された多くの方から、『次は協力するよ』と声をかけてもらいました。今回は新ひだか町の役場の皆さんに尽力していただきましたが、日高管内全体で馬文化を盛り上げたいと思っていただけたのなら、更に素晴らしいイベントになると思います」
そう話してくれた糸井さんだが、来年以降の「うまカルフェス」開催に向けての構想を既に練りつつある。
「今回のイベントを踏まえた上で、まだやりたいことが出てきています。ただ、個人でやれることには限界もあるだけに、今回と同様に馬産地の皆さんの力をお借りしながら、更に馬の魅力を伝えられるイベントにできたらいいですよね」
そう話した糸井さんは、「次の『うまカルフェス』は自分も、少しぐらいはイベントを楽しんでみたいです」と電話の向こうで笑った。