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第202回 『カンパイ』

2025.10.27

 9月13日から21日まで、東京で世界陸上が行われた。陸上競技はまったく未経験ではあるが、箱根駅伝は毎年競馬場の横で母校を応援するし、開催されていれば門前仲町に行く途中に下車して、ちょっとだけ沿道で観たりする。


 子供が小さかった頃は地元の市民マラソンのファミリー部門に何回か参加したことはあるが、2キロや5キロはあっという間だ。


 その昔、秋から冬にかけて専門紙の記者席に行くと、テレビの画面がマラソンや駅伝の中継になっていることが多かった。


 競馬専門紙の記者ともなると走るものはなんでも好きかというとそういうことはなく、単に弊社の大先輩がマラソンや駅伝が好きだったからで、そのあとは将棋の番組になっていることが多かった。(それも弊社の大先輩が将棋大好き)


 今回の世界陸上はフライングが多くみられた。男子100mの決勝ではボツワナの選手が0.3秒のフライングで一発失格になった。また、男子マラソンでもフライングがあった。マラソンのフライングは初めて観た。42.195キロもあるのだから、正直なところそこまで急ぐ必要はないような気もするのだが。


 またこのマラソンでは1着写真判定となった。42.195キロ走って100分の1秒まで同タイムというのもみたことがない。写真判定は主に短距離種目のために備わっているのだと思うが、マラソン競技でもちゃんと動かしているところは、さすが世界陸上だなと妙に感心してしまう。


 会社で観ていても「上り勝負」とか「仕掛けのタイミング」とか、競馬用語がしっくりくる感じが、親和性の高さなのかもしれない。


 最終日には中継に武豊騎手が登場したり、競馬ファンも楽しめたのではないかと思う。
 

 世界陸上だけでなく、今年の南関東ではカンパイ(フライング)が多くみられる。


 4月以降だけでも6回発生していて、ほぼ全て馬の突進によるものだが、なぜこれだけ多く発生しているのか、共通点もなくはっきりとした原因は今のところ不明である。


 ひとつ理由として挙げられるのは、ゲート構造の違いだろう。


 日本にはスターティングゲートのメーカーが2社ある。1つは日本スターティング・システム(JSS)、もうひとつは日本スターティングゲートである。


 日本スターティング・システム社製のゲートは緑・白・グレーのカラーでおなじみ、JRAのゲート。地方競馬でも広く採用されている。競馬博物館などで現物が見られる。


 特徴としては、扉にラッジレバーという金具が付いており、電磁石の電気が切れるとバネが動いてロックが外れて扉が開く仕組み。突進に強いため南関東で起きているタイプのカンパイはまず起きない。


 JRAでは平成以降2例のカンパイがある。フライングによるカンパイは1990年3月31日中山6Rが最後。1997年12月20日中山7Rのカンパイは、最後の1頭が枠入りする前にゲートが開いたため。これを最後にJRAではカンパイは発生していない。1990年のカンパイは、ゲートの構造から派手に扉を壊したのではないかと思うが、残念ながら映像がなかった。


 突進により金具が破損した場合、 JRAは外枠発走に、地方競馬の場合は扉の修理・交換となる。


 一方、日本スターティングゲートの方式は「宮道FM式」。南関東や兵庫、高知などで使われている。電磁石で扉が固定され、電気を切ることで扉が開く。大井競馬場の北門を入ったところで現物(モック)が見られる。


 このゲートはJSSに比べると突進に弱い。人の力では開かないが、馬の馬力なら開く。その分人馬の怪我は少ない。JRAから移籍してきた馬がゲートをもぐろうとする様子を、たまに見かけることがある。ある意味賢い。ごくたまに扉の開き方を知っている馬がいて、鼻先でちょんちょんして開く。しかも自分は枠から出ないから、あきらかに遊んでいるのだろう。船橋・佐藤賢二厩舎のスパーナルフィリーという牝馬がよくゲートを開けていた。ある意味賢い馬だった。


 1度中継で解説しているときに突進によるゲート破損が発生し、そのまま映像が続いたため、浅野靖典さんとともにゲートの構造と、扉の交換の解説をしたことがある。尺埋めの小ネタだが、意外にも役に立った。

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