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馬ミシュラン

小山内完友 馬ミシュラン

第20回 明暗

 たとえばプロレスなら,意図的に因縁話で対決構図を作り,それを基にストーリーを繰り広げて,最後に大きな箱の大会で直接対決,という流れが一般的である。いわゆる"ギミック"という奴である。

 競馬の場合は予め結果が出来ているわけではないが,しばしば大レースへ至る流れが,まるでよく出来た物語のように語られることがある。我々新聞記者が勝手に作り上げるのだが,そうして盛り上げて,新聞を売るのである。しかし,現実はもっとシビアだったりする。

 7月14日のジャパンダートダービー。ユニコーンステークスの1・2着バーディバーディ,バトードールや,3連勝中のミラクルレジェンド,京都新聞杯2着のコスモファントムらを迎え撃つのは,東京ダービー1~3着馬。マカニビスティー,ガナール,マグニフィカであるはずだった。

 ところが,東京ダービーを制してすぐに,マカニビスティーは中央へ転出。中央馬としてジャパンダートダービーを目指すこととなった。プロレスの"ギミック"なら,元々敵方だった選手と手を結び,そしてエースとして活躍,なのに土壇場で相手方へ寝返る,ということはよくあるストーリーなのだが,いやいや,これは競馬である。しかし,"寝返ったエース"マカニビスティーはジャパンダートダービーには出走できなかった。そこに立ちはだかったのは,「実施細目」である。

 「欠格事項」の(1)地方競馬から転出後,JRA所属馬として未出走の馬。

 元々中央デビュー馬であることはご存知かと思うが,中央再転入の制度をうまく利用し,羽田盃2着,東京ダービー1着。そのまま残れば普通に地方馬として使えたのだが,予定通りに"帰厩"してしまったがために,使えなくなってしまった。矢作調教師は規則の変更を求めたが,大井側は応じなかった。

 偶然ではあるが,この春,カネヒキリの帝王賞出走を巡り,一部規則の変更があった。同じ欠格事項の部分である。
 
 カネヒキリで問題となったのは,(2)の休養期間である。大井競馬の場合,「最終出走から起算して当該開催の前日までが1年以上である馬は,出走することが出来ない」となっている。だが,地方馬の場合は,総合調教試験を受験し,合格したA級の馬は出走出来る。

 例えば,フリオーソが1年以上休養していたとしても,出走申し込みをした上で,総合調教試験を受け,合格すれば帝王賞に出走できるのである。カネヒキリの場合,発走調教審査を受験させることで,地方と中央の条件を平等にしたに過ぎない。

 マカニビスティーの場合は,ちょっと微妙だ。ご存知のようにダートグレード競走には「枠」がある。中央枠と地元枠,そして他地区枠だ。この「枠」の部分に対する帰属は,今の中央⇔地方や地方⇔地方の馬移動の実態からすると,やや曖昧となってきた部分がある。もちろん,制度的には申し込み後に転厩した馬の出走は出来ないことになっている。大井の場合それに加えて,地方から中央に転出した馬に対して,中央馬としての1走を,いわば義務付けているのである。マカニビスティーはそこに引っ掛かった。

 ジャパンダートダービーに限らず,ダートグレード競走に出走申し込みする調教師に対して,大体どの主催者も「実施細目」を配布している。矢作調教師がこれを読んでいないはずはなく,むしろ意図的にこじ開けようとしたのではないか。「新たな試みだったけど,大井競馬を盛り上げようという意味もあったのに残念」という師のコメントは,筆者の曲解かもしれないが,そうとも受け取れる。

 大井に転入した時点で,収得賞金1,390万円であったから,そのままでは,もしかしたらジャパンダートダービー出走は厳しかったかもしれないし,あるいはもし出られたのなら,マグニフィカに勝っていたかもしれない。タラレバではあるが。結局,プロキオンステークスに出走し,ほぼ最後方から競馬して11着に終わった。

 帝王賞に出走かない,約13ヵ月振りのレースを,不屈の闘志で2着に健闘したカネヒキリ。それと比べてしまうと,明暗クッキリと分かれたような,そんな春の大井JpnⅠ戦線であった。