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第130回 『引退馬の危機』

2019.10.25
 このところ残念なニュースが続いている。
 新聞記事によると9月15日朝、日高町のヴェルサイユファーム㈱に繋養されているタイキシャトル(USA)のたてがみが切られているのを、同牧場の従業員が発見。門別署に届け出され、同署は器物損壊事件として捜査している、という。

 さらにローズキングダムのたてがみも切られていることが判明。同牧場は当面見学禁止を決定したというもの。

 引退馬を所有するNPO法人の引退馬協会と牧場はインターネットのSNSに鋭利な刃物、またははさみのようなものでたてがみを切られた跡の画像を掲載し、犯人の情報提供と、このようなことが2度と起きないよう、注意喚起している。

 しかし残念なことに、16日朝には浦河町の「うらかわ優駿ビレッジAERU」で繋養されているダービー馬ウイニングチケットのたてがみが切られているのが発見され、さらに同日、日高町の㈲日西牧場に繋養されている菊花賞馬ビワハヤヒデのたてがみが切られているのが発見された。

 その後被害に遭った馬の「たてがみ」と称したものがフリマサイトに出品されていることが判明。今回の事件との関連性や真偽のほどは不明だが、相次ぐ被害により、他の牧場でも警戒感を強めているという。

 自己の利益のために他者の所有物(馬)を傷つけ、奪ったり盗んだりする行為はひじょうに卑劣極まりない。早期の犯人逮捕が望まれる。

 ネットのオークションサイトやフリマサイトには競馬グッズが多く出品されている。例えば「的場文男騎手7,152勝Tシャツ」は大井競馬場でイベントが開催されている時にはもうプレミア価格で出品されていた。そのスピードの速さは、はなから転売を目的にしていたと推測される。

 また競走馬のたてがみ等が出品されることも、実はそう珍しい事ではない。過去にも「ディープインパクトのたてがみ」と称するものがオークションサイトに出品され、高額で取り引きされている。「イベントで貰った」「牧場関係者に貰った」と説明に書かれているが、今回の事件からも本当にそうなのか疑問に思う。

 そして入札履歴を見る限り、コレクターズアイテムとして高い人気を誇っていることがわかる。

 牧場見学は我々が学生の頃(およそ30年前)から盛んだった。今のようなインターネットも無く、繋養されている種牡馬や、見学可能な牧場は、プラザエクウスやふるさと案内所で「牧場地図」を手に入れて調べるのが王道で、北海道に着いて競走馬のふるさと案内所に行けば、新たに見学可能になった馬や、体調不良等で見学中止の馬が分かる。

 その頃からすでに「牧場見学の9箇条」は牧場地図の裏面に掲載されていた。

(1)見学の可否は競走馬のふるさと案内所にお問い合わせください。(2)見学時間は競走馬のふるさと案内所までお問い合わせください。(3)牧場では牧場関係者の指示に従ってください。(4)厩舎や放牧地に無断で立ち入らないで下さい。(5)大きな音や声を出さないで下さい。(6)危険ですから絶対に馬にさわらないで下さい。(7)牧場内は禁煙です。(8)カメラのフラッシュはご遠慮ください。(9)絶対に食べ物を与えないでください。

 当時から当たり前の話だと認識しているのだが、どうやら最近の牧場見学者の一部にはそうでもない人がいる、という話はチラホラ聞こえてきてはいた。特に近年、見学者が勝手に食べ物を与える、馬を驚かせる、見学時間を守らない、などの行為が牧場関係者を悩ませていると聞く。

 記憶に新しいところでは、馬が走っている姿を写真に撮りたくて、石を投げた一件。競馬雑誌やポスターに使われている写真は、カメラマンが足しげく牧場に通い、牧場関係者との人間関係を構築し、そして長い時間をかけて撮影したベストショットであって、数時間程度の滞在で撮れるものではない。

 「引退名馬繋養展示事業」は、助成金の額からも引退馬を繋養する生産牧場にとってはほぼ慈善事業だろう。一時的に展示を中止しているが、助成金交付要件は原則「常時展示」。監視カメラ設置にしても、馬に接触しない見学台設置にしても費用がかかる。そして今回のような迷惑行為を行う人間は、そもそもの目的が異なるので、防ぐことは難しい。本業に影響が及ぶようなら、引退馬の繋養自体躊躇われることになりかねない。

 一部の人間の蛮行が、引退馬全体の行く末を危うくしていると感じる。

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