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第138回 『無観客競馬3』

2020.06.25
 2月27日から始まった「無観客競馬」もこの号が出る頃には3か月となる。「生でレースを観たい!」というファンのイライラはそろそろマックスに到達しそうで、ネットも大分荒れてきた。

 我々業者は競馬場には入れるが、入ればカンヅメで、場内の飲食店は休業中、グルメイベントもないから、食料は持ち込み。もうそろそろ場内グルメの味が恋しく感じる今日この頃だ。

 この中間、4月11日(土)〜21日(火)の間に、大井競馬場本馬場の砂の入れ替えが行われた。リリースを見てときめいたのはその産地。「青森県つがる市の海砂」である。我が故郷、七里長浜の砂なのである。子供の頃に泳ぎに行ったあの砂浜の砂が、大井競馬場のメイントラックなのである。(厳密に言うと砂の採取地は少し内陸側の砂丘ではあるが)

 これまで永らく青森県六ケ所村の砂が使われてきたが、数年前に砂が枯渇し、前回の砂の入れ替えは青森県下北半島の砂に変更されていた。下北の砂は茶色で、それまでのイメージとは一変。これまでの「ナイター照明に映える白い砂」に比べると、「う〜ん」という感じだった。

 もちろん馬場の砂であるから、砂粒の大きさ、水はけなど機能性は問題なく、時計も大きくは変わらないから何ら問題はないのだろうけど。

 つがる市の砂も、言ってしまえばそれほど白くはない。どちらかというと肌色に近い感じだ。あのあたりの砂は、昔から「浮球」という漁業用のブイの原料だった。砂浜の砂を焚いてガラス玉を作っていたのである。つまり、シリカ(石英)を多く含んでいる。海岸には瑪瑙(めのう)や玉髄(ぎょくすい)といった綺麗な石が転がっていて、よく拾ったものだ。だから、レース後にゴーグルをうっかり拭いたら、おそらく派手に傷がつくものと思われる。水洗いした方が良いだろう。

 通常なら秋口に砂の入れ替えが行われるのだが、競馬場に聞いたところ、砂の手配に時間が掛かったようで、春の入れ替えとなったそうだ。メーカーは同じとのことで、おそらく太平洋側の砂が少なくなってきているのかもしれない。それで調達先が変わったのだろう。

 競馬場で故郷の砂の上に立ってみると、ふるさとの匂いがした(うそ)。砂粒の大きさはこれまでと変わらない感じだが、以前の砂に比べると、どっしりと重い感じがして、蹄音も少し硬く締まった音がする印象だ。

 まだ砂が馴染んでいない印象ではあるが、ひと開催終えた感じでは時計は良馬場で速め、湿ると少し時計が掛かる感じだ。大井は年間開催日が99日あって、調教も行われているから、今後使われてどう変化してくるか観察している。

 同じ4月に馬場の砂の入れ替えで注目を集めたのが、園田競馬場の砂。みればびっくりするぐらい白い。砂の産地はオーストラリア、西オーストラリア州アルバニーの海砂である。

 アルバニーとはどういうところか調べてみると、地図で言えばオーストラリア大陸の左下。西側の最南端で、オーストラリア政府観光局のアルバニーガイドには「西オーストラリア州で最高のビーチでひと泳ぎする」と書いてあるくらい、ビーチがイチオシだった。

 白い砂と言えば名古屋、笠松競馬場の愛知県瀬戸市産の砂が白いことで有名だが、それよりもはるかに白い。園田の方にその白さを求めて入れ替えたのかと尋ねると、そうではないと言う。

 きっかけは年末年始の開催で落馬事故が相次いだこと。姫路競馬場の工事により、7年以上もの間、週3日の開催が行われ、路盤も相当痛んで、水はけも悪くなっていたこともあり、脚抜きが悪く、滑りやすい状態だった。姫路開催の復活を機に、これを改善したとのこと。あくまで、人馬の安全面確保のための砂の入れ替えであることを強調していた。

 とはいえ、白すぎる馬場はナイター照明によく映え、昼間開催はまぶしいぐらいだ。砂は柔らかく、砂粒も少し細かく、時計はそれほど変わらないが、レースを観た感じは比較的タフではないかと思う。

 大井も園田も、やはり新砂を入れ替えた直後は、ほぼ逃げ、先行馬の天下だった。入れ替え直後は砂粒も揃っているため脚抜きが良く、前半のペースが速くなりやすいが、それでも好位の馬に交わされても、バテながらもなんとか3着に粘るケースが多く見受けられる。

 競馬観戦再開のおりには、是非新砂の蹄音を間近で聞いてもらいたい。

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