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第35回 「プライド」って? ~プライドの無い男・浜中騎手とは...~

2013.02.18
 「プライド」という言葉、皆さんはどんな時に使われますか?
 テレビや小説、もしくは知人との会話でよく耳にするのが、「僕にだってプライドがありますから」とか、「プライドを持って仕事をしていますから」「私のプライドが許さない」「もっとプライドを持てよ」などなど。
 これまでのイメージからすると、人間はプライドを持った方がいい、持たないといけない、と教え込まれていた気がします。

 しかし実際に辞書で言葉の意味を調べてみると、「自尊心・自負心・誇り」と書かれており、確かにプライドというのは、自分自身の中で自分を誇示するために使うケースが多いことに気づかされます。と同時に、プライドを持ってしまうがために、周囲と自分との考えのギャップに苦しめられたり、衝突をしたり、時には孤立してしまうことも...。

 なぜこんな話をするのかというと、実はデビュー6年目にして昨年のリーディングジョッキーに輝いた浜中俊騎手は、会話の中で自分自身のことを「僕はプライドの無い人間ですから」と、度々口にし、屈託のない笑顔で笑うのです。

 騎手という職業は決して良い時ばかりではなく、結果が出ない時には、その騎乗について厳しく問いただされることもあります。もちろんそれが自分自身でも納得のいくミスであるならば受け入れることもできますが、考えを持って最善と思える騎乗をした時においても頭ごなしに叱られることも...。

 2012年、浜中騎手にとってもそんな状況があったように感じますが、その際、浜中騎手のとった行動というのが、相手と衝突するのでもなく、また媚びるのでもなく、サラリと空気のような対応をし、その数ヵ月後には、再びその馬に騎乗し、そしてきちんと結果を出したのです。

 その時、彼が口にしたのが、「僕はプライドが無いから(笑)」と。

 その言葉に、弱冠24歳にしてプライドの意味を十二分に理解している彼の頭の良さに驚かされると共に、人間の弱い部分を把握した上で、その弱さに負けない芯の強さを垣間見た気がしました。

 騎手は騎乗依頼を受けてこそ成り立つ職業。昔から「乗せてもらえてナンボの世界」と言われるその背景には、いくら高い騎乗技術を持っていても、依頼がなければ結果を出すことができないのが騎手。巧い人=ナンバー1の騎手とは限らないのです。

 いや逆に、騎乗技術が高いからこそ、馬乗りとしての考えに妥協することができず、馬作りの過程において周囲との摩擦が生じてしまい、コンビ解消となるケースも...。だからこそ、この世界では、「あの人、ほんとはもっと勝てる騎手なのにね」とか、「もったいないよね、ほんとはG1をいくつも勝っててもおかしくない人なのに...」なんて会話が聞こえます。

 浜中騎手の師匠である坂口氏は、彼が競馬学校時代に、「どんな先輩騎手が成績をあげ成功をするのか?そしてその逆はどうしてなのか?そのあたりをしっかり見ておきなさい」と指導され、浜中騎手は騎乗以上に先輩騎手の人間性を観察することに趣をおいていた様子。きっとその時に、プライドが騎手として大きな障害となることに気づいたのでしょう。

 しかしながらこれは騎手という職業に限らず、どの世界でも言えること。

 やはり人は、人あっての自分。1人では何もできず、最後は人と人との間で活かされているようなもの。意見や見解が違うと、すぐに敵を作ってしまう私には耳の痛い話であると同時に、浜中騎手から学ぶことは多く、非常に勉強になりました。

 さぁ年明けから早くも重賞2勝目をマークした浜中騎手。しかも昨年苦い思いもしたG1での1番人気騎乗での経験が、プラスの方向へと活かされているかのようなハナズゴールでの重賞勝利は、今年のさらなる飛躍を感じさせるものでした。2013年、浜中俊騎手から益々目が離せなくなりそうです。

 それではまた来月お逢いしましょう。
 ホソジュンでしたぁ。
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